嘘恋のち真実愛
「はい、どうぞ。飲める?」

「ありがとうございます。あの、自分で持てますから」

「手に力が入らないかもしれないよ? 落としたら大変だからね。ほら……」


部長は、カフェで冷たい緑茶を買ってきてくれた。プラスチックのカップは彼が持っていて、ストローを私のほうに向けている。

食べ物を『あーん』するのと、同じような状態でまたまた恥ずかしい。

でも、ここで落としたら大変なことになるし、喉がものすごく乾いている。観念して、ストローを口に入れた。もちろんカップは部長が持ったままである。

すぐ目の前に人がいる状態で、ゴクゴクと勢いよく飲めない。控えめに飲みなから、目線を部長に向けた。

彼は私をずっと見ていたようで、目が合う。その瞬間、緑茶が気管に入った。


「うっ、ごっ、ゴホッ 」

「ゆりか、大丈夫?」

「は、い……けほっ……。ん、んん!」


咳払いをして、なんとかむせるのを最小限におさえてから、息を整える。部長が背中をさすってくれた。


「すみません、ご迷惑ばかりで……」


挨拶のやり直しから、自分がずっとダメすぎて、落ち込む。
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