嘘恋のち真実愛
昨夜婚約者を部長と呼ぶのは変に思われるから、名前で呼ぶようにと言われた。私も了承したが、つい出てしまった。


「ごめんなさい、間違えました。征巳さん……」

「うん、なに?」

「今夜は私がソファーで寝るので、征巳さんはここで寝てください。ソファーだと疲れが取れないですよね?」

「そんなことないよ。あのソファーは座り心地もいいし、寝心地もいい」


部長はベッドに腰かけて、私の後頭部を撫でる。寝癖を直してくれているようだ。この状況もまた恥ずかしくて、鼓動が速くなる。

動揺していることを悟られないよう「あの!」と大きめの声を出した。部長は「ん?」と不思議そうな顔をするものの、撫でる手は離れない。


「確かに寝心地も良さそうなソファーですけど、このベッドのほうが最高に寝心地いいですよ」

「それは、そうだよ。最高の睡眠が取れるよう選んだベッドだからね。ゆりかも気に入ってくれて、うれしいな」

「えっ、あ、そうですよね。ぶ、いえ、征巳さんが毎日寝ているベッドですものね。ほんと、いいベッドですね。広々していますし」
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