偽りの愛で、永遠の愛を誓います
「待ってください!結婚なんて、誰が決めたんですか?」

「誰って、社長に決まっているでしょう」

「うちの会社の社長は、誰にも知られていないんです。何かの詐欺ですか?」

「随分面白いことを言う人だね」

そう言って、彼は目を細める。

私が混乱するのも無理はない。

だって、社長は人と関わるのが大嫌いで取り引きなどは全て社員に任せているから。

どうしても行かなければならない商談でさえも拒むほどの人間嫌いだ。

「まぁ、君が混乱するのも無理はない」

「私を家に返してください。今だったら会社に不法侵入したことを、誰にも言いませんから」

「社長、この方は馬鹿なんですか?」

「馬鹿って失礼な…」

彼の秘書であると思われる彼が、私に冷ややかな目を向ける。

そんな目で見られたって、混乱しているのだから仕方がない。

「とりあえず、君の名前を教えて」

「嫌です」

「名前を教えて貰わないと困るんだ。これから、色々な手続きがあるからね」

彼は、にこりと微笑んでそう言った。

人当たりの良さそうな笑顔だが、目が笑っていない。

名乗れ、と私に圧をかけている。

「名乗らないなら、色々調べさせてもらうよ」

「私は、この企業の下っ端社員です。それに、名乗るほどの名前ではありません」

何とか逃れようとそう言ってみるが、彼の表情は変わらない。

秘書さんの表情はどんどん曇るばかりだ。

「社長からのご命令です。早く名乗ってください」

「いくら社長からの命令だと言っても、名乗る必要はありません」

「あなたも、頑固な女性ですね」

そう言って、秘書さんは呆れ顔をしたが、なんとでも言えばいい。

人間嫌いで噂の社長とこんな感じで対面して、私だって色々混乱してるんだから。

「早く名乗った方が身のためだと思うよ」

「どういうことですか?」

「お前、あんまり成績良くないんだろ?」

「なんでそれを…」

「なんでって、一応社長だから。俺は、お前の成績が悪い理由も知っている」

「それって…」

「なぜ、あんなに酷いことをされても抵抗しないんだ?」

椅子から立ち上がり、彼は俯き加減の私の顔を覗き込む。

そんなに整った顔で見られたら、心が持たない。

「抵抗、出来るわけないじゃないですか」

「なぜ?」

「私だって、出来ることなら抵抗したい。だけど、抵抗してしまったら私はあの部署を追い出されてしまう」

「それは誰が決めてるの?」

「部長が私に言ったんです。もし何かされて抵抗でもしたら、お前はクビだと」

私の言葉に、彼は何かを考えるような素振りを見せた。

秘書さんも、あんなに呆れ顔をしていたのに私のことをじっと見つめている。
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