偽りの愛で、永遠の愛を誓います
「私だって、あんな所にいたくない」

「でも、異動出来ない理由がある。そう言いたいのか?」

「はい、そうです」

日頃の精神的ストレスにいつまでも耐えられるほど、私は強くない。

だけど、東京で仕事をすると決めた以上、クビになる訳にはいかない。

「分かったのか、明日からお前は社長秘書だ」

「…は?」

「社長、私はどうなるのでしょうか?」

「もちろん、大久保には今まで通り働いてもらう」

「でしたら、この女性は必要ないのでは…?」

「大久保には私の仕事の秘書、お前には身の回りの世話をして欲しい」

つまり、社長の家政婦になるということなのかな。

今いる部署から離れられるのは嬉しいけど、社長の身の回りの世話となると気を使いそうだ。

「それじゃあ、異動してもらうから、名前を教えてもらえる?」

「高橋…琴葉|《ことは》です…」

「琴葉、今日からよろしくな」

そう言って、社長は微笑んだ。

仕事は明日からのはずなのに何故だろう。

そんな私の疑問は、一瞬で解決する。

「それじゃあ、私の家に帰ろう。琴葉のアパートは、もう引き払ってあるから」

「何言ってるんですか?荷物だってまだ…」

「それでしたら、既に社長の家に届けられております」

大久保さんがそう言って、にこりと笑う。

荷物を運ぶ手間が省けたのはとてもありがたいが、いきなり社長と住むのは無理だ。

まだ、社長の名前も何も知らないし。

「俺の名前は大里蒼弥|《そうや》」

「蒼弥さん…」

「25歳独身、いや、琴葉と結婚するからもう独身ではないな」

そんなことを言われたって、急に受け止められるわけがない。

確かに、恋人はいないが結婚は好きな人としたいと思っていた。

「先に言っておくけど、俺たちの結婚はもう決まっているから」

「どういう意味ですか?」

「この結婚は、俺の父と琴葉の父が決めたことなんだよ」

サラッとそんなこと言われ、私は再び混乱する。

私みたいな田舎娘が、どうして蒼弥さんと結婚なんて出来るのだろう。

いや、それよりも蒼弥さんの父と知り合いであるお父さんが怖いよ。

「じゃあ、今日はもう帰るぞ。大久保、呼び出して悪かったな」

「いいえ、お気になさらず」

大久保さんに見送られ、私は蒼弥さんに手を引かれるがままマンションに連れて行かれた。

さすが、大手企業の社長さんが住むマンションともなれば、庶民の私には手の届かないような生活をしている。

「とりあえず、俺シャワー浴びてくるから」

「え、あ、はい」

こうして、私の気持ちなんてお構いなしに、彼との同棲生活が始まったのです。
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