凌玖先輩から逃れられない
顔を見上げると、凌玖先輩はお得意のとろけそうな甘い笑顔を浮かべていた。
「ひゃっ」
耳がくすぐったくて、変な声を漏らしてしまう。
ここがふたりきりであるか否かでは、恥ずかしさが大きく変わる。
茂田くんに聞かれた……っ
先輩になら聞かれてもいい……というわけでもないけど、赤の他人に聞かれるのはとても空気が重い。
「……ごめん。変なこと言って」
気まずい思いは同じなのか早くこの場から去りたいらしい。
「閉館作業はやっとくから。会長と末長くお幸せに」
早口で捲し立てた茂田くんは作業に戻ってしまった。
「行くぞ」
先輩が手を引いて、歩き出した。
その手が途中絡むように繋がれる。