千景くんは魔法使い


その後、桃ちゃんを通して真田くんの生徒手帳は渡してもらった。

千景くんはより一層、私と距離を取り始めて、まともに話すこともないまま夏休みを迎えた。


「……あつ」

昼下がりのリビング。節約のためにエアコンではなく扇風機が全力で稼働している。

私は扇風機の首振りに合わせるように顔を動かして、風が一番当たる場所でうなだれていた。


「ちょっと花奈。学校から出た宿題はやってるの?」

毎日ダラダラと家にいるだけの私に、お母さんの小言は目に見えて増えた気がする。

「やってるよ」

「どうせ一ページとかでしょ。最終日になって慌てて手伝ってとか頼んできてもお母さんは知らないからね」

「んー」

気だるい返事をすると、お母さんはため息をつきながら出掛けていった。どうやら職場の人とランチの約束をしてるそうだ。

……いいな。予定があって。

私は誰からの誘いもこないスマホを見つめる。

千景くんはなにをしてるかな。

あの一件以来、ぎくしゃくしてしまって、学校でも気まずかった。

それに加えてタイミング悪く夏休みになってしまったから、ますます千景くんの存在が遠い。

会いたい。話したい。声が聞きたい。

千景くんのことを想えば想うほど、好きという気持ちが自分の中で大きくなっていく。

と、その時。握っていたスマホが鳴った。


【花奈、なにしてる?暇ならプールでも行かない?】

それは桃ちゃんからのメッセージだった。

【行きたい!】

誘ってくれたことが嬉しくて、3秒で返信をした。

あれ、でも待って。プールってことは水着だよね?

私、水着なんて、持ってたっけ……。
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