一夜の過ちで授かったら、極上御曹司に娘ごとたっぷり溺愛されています
昨日の夜は、ほとんど眠れなかった。
重たい体をなんとか起こすと、真由を起こし支度をする。

「あっ、まなくんおはよう」
いつも通りの真由に、私達も普通を装うも、会話はなく私も気持ちをシャットアウトして感情をあらわすことはしなかった。
真翔さんは何か言いたそうだったが、真由もいるからだろう。何度か言葉を止めた。

真由を保育園へ送り、いつも通り待っているだろう真翔さんの車に戻った私だったが、どうしてもふたりで今冷静に話せる自信がない。

「今日は電車で行きます」
静かに言った私の言葉に、真翔さんははっきりと傷ついたような表情をした。

「……わかった」
しかし、それ以上なにもいうことはなかった。

私が背を向けて歩き出したとき、後ろからいつもの優しい声が響く。

「咲綾、気をつけて」

その言葉に、胸がギュッと締め付けられる。やめてよ。
どうして、どうして今そんな優しい声を出すのよ。

私はそれに返事をすることも、振り向くこともせず歩き出した。

角を曲がるまで、真翔さんの車が発進することはなかった。

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