一夜の過ちで授かったら、極上御曹司に娘ごとたっぷり溺愛されています

「咲綾……」
いつものように、私に触れようとした手が躊躇するように目の前で止まる。
そして血が出るのではないかと思うぐらい、握りしめられた。

そんな真翔さんに、私はなにも言えなくなった。
「咲綾、頼む。話だけさせて」
真翔さんの言葉に、私は諦めたように頷いた。

小さな部屋に真翔さんと視線を交わらせることなく座る。
しかし、私はいきなり現れた真翔さんに頭がうまく働かない。

「真由ちゃんは?」
真翔さんは家の中を見渡しながら言葉を発した。

気付けば時間は22時を回っていた。
今まで仕事だったのだろう。スーツ姿の真翔さんに、定時に帰った私は申し訳ない気持ちになる。

「もう寝てます」
「だよな」
当たり前の差しさわりのない会話をするも、すぐに沈黙が訪れる。

この空気に耐え切れず私はお茶でも入れようと立ち上がった。
「どこに行く?」
すかさず聞かれた私は「お茶を」そう答えた。

「お茶はいいからここにいて」

なぜかお願いをされ私は、またその場にちょこんと座った。

「昨日はごめん」
いきなり本題に入られて、私は何も言えず真翔さんの言葉を聞いていた。
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