一夜の過ちで授かったら、極上御曹司に娘ごとたっぷり溺愛されています
しばらく呆然と座り込んでいた私だったが、突如なった電話に我に返る。

「はい」
『どうした?』
たった二文字だけのその言葉で、私のことがわかるの?
そんな思いで、真翔さんの声に涙が零れ落ちる。

『咲綾』
もう一度呼ばれた声に、私は呼吸を整えると声を発した。

「どうされましたか?」
いつも通り仕事モードで切り返すと、真翔さんは少しの無言のあといくつかの指示をだす。
この後は確か会食の予定だったはずだ。

「わかりました」
最後にそう答えると、私は自ら先に電話を切った。
これ以上話していると、また余計なことを言いそうだった。

なんとか気持ちを立て直すと、私は仕事に集中していた。
それでもさっきの蓮人さんの言葉が頭をよぎる。

その時、勢いよく扉が開いた。

「咲綾!」
会社ということも忘れたのか、私の名前を呼ぶと、真翔さんは私を抱きしめる。

「蓮人さんに何をいわれた?」
きっとさっきの私の態度で、何かあったかを察知したのだろう。
それでいて、私に聞いても絶対言わないのもわかり、自分で確かめたとわかった。
「会食は?」
小さく呟いた私に、抱きしめたまま真翔さんは耳元でささやく。
< 229 / 299 >

この作品をシェア

pagetop