セレナーデ ~智之

「取りあえず 付き合うからだよ。付き合っているうちに 好きになるとか思って。逆なんだよ。どうしても 一緒にいたいって思う人と 付き合うんだよ。」

智之は 淡々と言う。
 

「彼女 悪くは ないんです。顔も性格も。結婚しても 普通には 暮らせると思う。でも 廣澤係長が 言うみたいな 絶対、彼女じゃないと駄目だっていう 気持ちには なっていなくて。」


宮内の 正直な言葉を 智之は 頷きながら聞いた。
 

「妥協するか。運命の人を待つか。難しい選択だね。」
 
「どっちも メリット デメリットが あるから。」

宮内は 営業マンらしい 発言をする。
 

「俺 時々考えるんだ。奥さんと 出会えなくて 別の人と 結婚した生活を。今が 幸せ過ぎて 逆に 想像もつかないんだけどね。妥協して 淡々と暮らす自分。仕事も 最低限こなして。時々、浮気したり。家に帰っても 話すことが面倒で。ギリギリまで 会社に残っていて。でもさ、大半の人は そんな生活を しているんだよ。悪い事じゃないよ。」


静かに語る 智之に 宮内は 聞き入る。
 

「俺は 廣澤係長みたいに 誰にでも 自慢できるような 家族を作りたいから。」
 

「それなら まず彼女を 解放してあげないと。期待させて 縛っておいたら 彼女の人生も 狂わせてしまうよ。それに 運命の人に 出会えない時は 一生 独身でいるくらいの 覚悟ができるかだよ。」


智之の言葉を 宮内は 神妙に聞いている。
 

「それも ありですよね。今は 結婚って 絶対じゃないし。真剣に 別れようかな。会う度に 責められて。うんざりしているんです。」


宮内の 正直な言葉に 智之は苦笑する。


「宮内 まだ若いじゃない。妥協して 結婚する 年じゃないと思うよ。それに 特定の彼女 いなくても 割り切って 遊ぶ相手なら いくらでも いるでしょう。」


智之の 言葉に
 

「また 過激なこと言う。」


と宮内は 苦笑しながら どこか 吹っ切れた 明るい表情を見せた。
 
 







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