一途な恋とバックハグ
酔ってるのか終始ご機嫌の笹川の足元がフラフラして危なっかしいなと思ってると、彼女が耳の痛い事を言う。

「課長の笑顔素敵なのに~もっと会社で笑顔でいたらみんな怖がることも無いのになんでいつもむひょうじょうなんですかあ~」

「…会社は仕事をする場所だ。笑顔は必要ないだろう」

「でも~、円滑にい~仕事をするには笑顔も大切だと思いま~す!」

笹川に指摘され、怖がられてるだけじゃいけないとは自分でもわかっているが、長年それを貫いてきたから今更どんな顔すればいいんだとちょっと悩む。
プライベートじゃ笑えても仕事じゃ気構えてしまってそうはいかない。

「あ~怖い課長も素敵だから~そのままでもいっか~」

ドキッとして思わず笹川を見つめてしまった。
怖い俺が素敵?…なに血迷ったこと言ってるんだ?と思ったが、ふわふわしてる彼女が酔っぱらってるのは明白で本心じゃないと気付いて何故かがっかりした。

「……酔っ払い…」

ぽつりと呟くと笹川はえ~?と聞き返すように俺に耳を近づける。
その時足がもつれて倒れ込みそうになったのを咄嗟に抱きとめた。
不覚にも、バックハグ状態になったのは致し方ないと思ってもらいたい。
セクハラと騒ぎ立てられなきゃいいがと、ドキドキと跳ね上がる心臓を落ち着かせるために笹川がそんなことするわけないと知っていても思ってしまった。

「ほら、しっかりしろ。ちゃんと立て」

「は、はい」

しっかり立たせて離れると背中を向けてる彼女の耳が真っ赤なのに気が付いて落ち着けたはずの心臓がまた跳ねた。

「…気を付けろよ、酔っ払い」

平静を装って、そんなに飲ませたつもりはないんだがなと、ポンポンと思わず頭を撫でた。
安心させるように微笑んだつもりだが内心「何だ!この可愛い小動物は!!」と、もっと触れたい欲求と葛藤していた。
ほんとは抱き締めぐりぐりと撫でまわしたいところだが、いくら今日一緒に飲んで少しは打ち解けたからといってこれ以上は彼女を怖がらせてしまうだろう。
上司として部下をおかしな目で見てしまってはそれこそセクハラになってしまうではないか!
諦めろ、と、自分に言い聞かせほら行くぞ、と歩き出したら予想外の言葉が耳に飛び込んだ。

「すっ…好きです!」

「は?」

今のは聞き違いか?と驚いて振り向いたが言った本人も驚いた顔をしていた。


「え?」

「え?」


「…え?」


「…え?」

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