パンデミック.新形コロナウイルス
この時期、すべてはオンラインの中に閉じ込められていた。リサはホテルのデスクに座り、ヘッドセットを装着して、画面の向こう側の誰かに向かって淀みなく言葉を紡いでいる。
「……はい、承知いたしました。少々お待ちいただけますか」
彼女がマイク越しに放つその台詞は、まるで僕たちの生活そのものを演出する舞台装置のようだった。画面の中の彼女は、社会の一員として規律正しく振る舞っている。けれど、その足元で、僕たちは互いの膝を密着させ、禁じられた熱を分かち合っていた。オンラインの向こう側には、どこにも行けない僕たちのリアルな時間が流れている。それが、僕には何よりも心地よかった。
仕事の合間、彼女がマイクをミュートにする一瞬の静寂。その隙を狙って、僕は彼女の耳元に口づけ、仕事に集中しようとする彼女にわざとちょっかいを出した。画面の向こうの相手には決して見えない、僕たちだけの密やかな攻防。求め合うたびに、モニターの光が僕たちの肌を青白く照らした。
腹が減れば、迷わずフロントに電話をした。
「すみません、ルームサービスをお願いします」
届いたばかりの温かい食事がテーブルに並ぶ。殺伐としたパンデミックのニュースが流れるテレビを消し、僕たちはただ目の前の温もりだけを貪った。コンビニで買ったおやつを分け合い、他愛のない冗談を言い合う。
「ねえ、これぞコロナって感じだよね。世界が止まって、僕たちだけがここで動いてる」
リサが笑うと、その声が部屋の空気に溶けていく。外の世界がどれほど怯え、どれほど隔絶されていようと、このホテルの扉の内側には、僕たち二人のための確かな聖域があった。
「どこにも行かなくていい。誰にも会わなくていい。ただ、こうして君と食べて、笑って、触れ合えるなら、この窮屈な日々も悪くないよ」
彼女が僕の肩に寄りかかる。画面の中では無機質な会議が続いているけれど、そんなものは僕たちの幸福の前では、ただのノイズに過ぎなかった。
オンラインの冷たい光の中で、僕たちは泥臭く、濃密な愛を育てていた。仕事と、食事と、肌の温もり。その単調な繰り返しが、何よりも幸福だった。パンデミックという閉塞感が、皮肉にも僕たちの距離を世界で一番短くしていたんだ。
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