パンデミック.新形コロナウイルス
緊急事態宣言が発令される直前、駆け込むように同じホテルに身を寄せた。あの時の判断が、僕たちの運命を決定づけた。
「あの時、ここで一緒にいることを選んで本当によかったよね」
僕がそう言うと、リサは小さく笑った。その笑顔は、明日をも知れぬ不安に満ちた世界の中で、唯一僕を繋ぎ止めてくれる光だった。
僕たちの関係には、何の前触れも、社会的なしがらみもなかった。まるで、穏やかな日常に突然隕石が衝突し、太陽が隠れて永遠の夜が訪れたかのように、僕たちは「その時」を迎えたんだ。
最悪のパンデミック。世界が「不要不急」という言葉で断絶され、人々が互いを遠ざけるしかなかったあの日々。でも、僕にとっては、その「最悪」こそが、リサと二人きりでいられる「幸運」の入り口だった。
「本当に、運がよかったんだね。こんなことがなければ、僕たちはこんなふうに夜を共有することもなかったかもしれない」
リサは頷いた。外の街は静まり返り、かつての喧騒は嘘のように消えていたけれど、僕たちの部屋の中には確かな熱があった。
この悪い状況が、逆に僕たちを運命的な幸運の連鎖へと連れ出したのだと思うと、不思議と恐怖は薄れた。誰にも見つからず、誰からも干渉されず、ただ二人でこの夜を生き抜く。外の世界が暗闇に閉ざされたからこそ、僕たちの密室は、より一層輝いて見えた。
世界が崩壊するその瞬間に、僕は彼女を選び、彼女もまた僕を選んだ。ただそれだけの偶然が、パンデミックという絶望の中で、僕たちを世界で一番幸福な二人にしたんだ。
「ねえ、夜が明けないままでもいいと思わない?」
リサが冗談めかして言ったその言葉に、僕は深く頷いた。この異常な日々が、僕たちの関係を純粋な結晶へと変えていく。運が良いとか悪いとか、そんな世俗的な価値観なんてどうでもよかった。ただ、この真っ暗な世界で、彼女の体温だけが真実だった。
< 129 / 382 >

この作品をシェア

pagetop