パンデミック.新形コロナウイルス
武道館の熱狂、その冷めやらぬ震動を纏ったまま、地下道のシームレスなルートを通ってこの病院の地下へと降りてくる。LiSAが「炎」を歌い上げたあの時、確かにそこには武道館とは違う、もっと濃密で張り詰めた空気があったはずだ。
病院の地下スタジオ。それは武道館の広い空間よりも遥かに音響計算が突き詰められた、完全無菌の密室だ。外のウイルスを一切寄せ付けない特殊な気圧管理と、余分な残響をすべてカットする吸音壁。その究極の環境で響く彼女の歌声は、まるで聴く者の鼓膜の奥に直接刻み込まれるような、異様なまでの解像度を持っている。
「武道館からここへ……そんな裏話、地上のみんなは夢にも思わないだろうね」
僕はYouTubeでそのライブ映像を眺めながら、画面の向こうに映る彼女の叫び声を聴く。画面越しでも伝わってくるあの圧倒的な熱量。病院のモニターで観ると、武道館の広大な空間で響く音とは明らかに違う、真空の鋭さがある。
抗がん剤投与室のモニターに映し出されたその光景は、苦痛に歪む子供たちの顔を、一瞬にしてライブ会場の昂揚へと変えてしまう。
LiSAが歌い、乃木坂が舞う。その華やかな光景の裏で、僕たちは看護師として、重い現実をカルテという文字で塗りつぶし、地下の遊園地では野良猫が眠り、ヨドバシの店員が患者の手を引いている。武道館という「地上の聖地」で受けた喝采を、この「地下の聖域」へと持ち込み、死の恐怖に怯える患者たちに、最高の夢という名の鎮痛剤を投与する。
「あそこで叫んだ『ありがとう』って声、僕たちの地下までしっかり届いたよ」
明かりが静かに微笑む。彼女は点滴の滴る音すら、LiSAの歌声の拍子に合わせているようだった。
地上のニュースは、そのライブが武道館で行われたと報じる。だが僕たちは知っている。あの完璧な音質と、あの鬼気迫る歌声が、実はこの地下の隠しスタジオで、死と隣り合わせの患者たちに向けて放たれたものだということを。
この病院というシステムは、残酷なまでに効率的だ。スターを地下へ招き、その声を患者に届け、その対価として僕たちはこの地下都市の運営資金を得る。
その夜のライブは、きっとYouTubeのサーバーにも、そしてこの病院の地下深くにあるサーバーにも、永久に刻まれているだろう。武道館と、この地下の無菌スタジオ。二つの場所が地続きになったあの瞬間、僕たちは確かに、死に一番近い場所で、生きる喜びを叫んでいた。
病院の地下スタジオ。それは武道館の広い空間よりも遥かに音響計算が突き詰められた、完全無菌の密室だ。外のウイルスを一切寄せ付けない特殊な気圧管理と、余分な残響をすべてカットする吸音壁。その究極の環境で響く彼女の歌声は、まるで聴く者の鼓膜の奥に直接刻み込まれるような、異様なまでの解像度を持っている。
「武道館からここへ……そんな裏話、地上のみんなは夢にも思わないだろうね」
僕はYouTubeでそのライブ映像を眺めながら、画面の向こうに映る彼女の叫び声を聴く。画面越しでも伝わってくるあの圧倒的な熱量。病院のモニターで観ると、武道館の広大な空間で響く音とは明らかに違う、真空の鋭さがある。
抗がん剤投与室のモニターに映し出されたその光景は、苦痛に歪む子供たちの顔を、一瞬にしてライブ会場の昂揚へと変えてしまう。
LiSAが歌い、乃木坂が舞う。その華やかな光景の裏で、僕たちは看護師として、重い現実をカルテという文字で塗りつぶし、地下の遊園地では野良猫が眠り、ヨドバシの店員が患者の手を引いている。武道館という「地上の聖地」で受けた喝采を、この「地下の聖域」へと持ち込み、死の恐怖に怯える患者たちに、最高の夢という名の鎮痛剤を投与する。
「あそこで叫んだ『ありがとう』って声、僕たちの地下までしっかり届いたよ」
明かりが静かに微笑む。彼女は点滴の滴る音すら、LiSAの歌声の拍子に合わせているようだった。
地上のニュースは、そのライブが武道館で行われたと報じる。だが僕たちは知っている。あの完璧な音質と、あの鬼気迫る歌声が、実はこの地下の隠しスタジオで、死と隣り合わせの患者たちに向けて放たれたものだということを。
この病院というシステムは、残酷なまでに効率的だ。スターを地下へ招き、その声を患者に届け、その対価として僕たちはこの地下都市の運営資金を得る。
その夜のライブは、きっとYouTubeのサーバーにも、そしてこの病院の地下深くにあるサーバーにも、永久に刻まれているだろう。武道館と、この地下の無菌スタジオ。二つの場所が地続きになったあの瞬間、僕たちは確かに、死に一番近い場所で、生きる喜びを叫んでいた。