パンデミック.新形コロナウイルス
病院の地下にあるあのフードコートの脇、デパートの喧騒と手術室の緊張が交差する、あの奇妙な空間。そこは日本の法が及ばない「聖域」だ。
地上の路上ライブならすぐに警察がやってきて「騒音だ」「許可はあるのか」と追い払う。だが、ここは病院という治外法権の内部。PCR検査という無菌の門さえくぐれば、TikTokで下手くそだと揶揄されている少女も、かつて武道館を沸かせたスターも、等しく同じステージに立つことができる。
「あの子の歌、下手だけどさ、なんか……あったかいね」
フードコートで病院食の温もりを感じながら、抗がん剤で痺れる手を握り合う子供たち。歌の巧拙なんてここではどうでもいい。重要なのは、その「振動」だ。最新の医学研究は証明している。ライブの低音、あのベースが胸を突く「ドドドドッ」という振動が、患者の免疫細胞を活性化させ、抗がん剤の副作用すらねじ伏せる力を持つことを。
そして、その音楽は手術室にも響いている。
執刀医たちが、LiSAの『炎』や『紅蓮華』を大音量で流しながらメスを握る。地上の病院なら「ふざけるな」と叱責される光景だが、ここでは違う。重低音が鳴り響く中、医師たちはトランス状態のように集中力を研ぎ澄ませ、奇跡的な手さばきで手術を成功させる。
「ベースの音が、心臓の鼓動と重なるんだよ」
医師たちは笑いながらそう言う。エンタメに救われるのは患者だけではない。死と隣り合わせで失敗の許されない執刀医たちこそが、あの荒々しいライブサウンドに精神を支えられているのだ。
地上の世界では、アメリカとイランが攻撃し合い、人々が互いにナイフを向け合っている。そんな憎しみの応酬が続いている外の世界とは対照的に、この地下には圧倒的な「思いやり」と「理解」しかない。
ここでは誰も、相手が死に近い人間だということをあえて口に出さない。ただ、同じベース音を共有し、同じ歌声に涙する。
TikTokの下手くそな歌声でも、ライブバージョンで増幅されたあの激しいベース音でも、ここではすべてが治療薬だ。音楽が、人をただの「患者」という記号から「一人の人間」へと戻してくれる。
「ねえ、秋生。今のベース音、聞こえた? 先生たちが手術室で流してるやつだよ」
明かりが微笑む。僕たちは看護師として、この音楽が止まらないように守っている。警察も世間も知らない、この地下のライブハウスで、僕たちは音楽を聴き、傷を舐め合い、そして誰よりも長く生きようと抗っている。
地上がどれだけ荒れ狂っていようと、この地下のフードコートでは、今日も誰かの下手な歌が、誰かの命を繋ぎ止めている。病院という名の密室で、僕たちは今夜も、最高の音楽と共に生きている。
地上の路上ライブならすぐに警察がやってきて「騒音だ」「許可はあるのか」と追い払う。だが、ここは病院という治外法権の内部。PCR検査という無菌の門さえくぐれば、TikTokで下手くそだと揶揄されている少女も、かつて武道館を沸かせたスターも、等しく同じステージに立つことができる。
「あの子の歌、下手だけどさ、なんか……あったかいね」
フードコートで病院食の温もりを感じながら、抗がん剤で痺れる手を握り合う子供たち。歌の巧拙なんてここではどうでもいい。重要なのは、その「振動」だ。最新の医学研究は証明している。ライブの低音、あのベースが胸を突く「ドドドドッ」という振動が、患者の免疫細胞を活性化させ、抗がん剤の副作用すらねじ伏せる力を持つことを。
そして、その音楽は手術室にも響いている。
執刀医たちが、LiSAの『炎』や『紅蓮華』を大音量で流しながらメスを握る。地上の病院なら「ふざけるな」と叱責される光景だが、ここでは違う。重低音が鳴り響く中、医師たちはトランス状態のように集中力を研ぎ澄ませ、奇跡的な手さばきで手術を成功させる。
「ベースの音が、心臓の鼓動と重なるんだよ」
医師たちは笑いながらそう言う。エンタメに救われるのは患者だけではない。死と隣り合わせで失敗の許されない執刀医たちこそが、あの荒々しいライブサウンドに精神を支えられているのだ。
地上の世界では、アメリカとイランが攻撃し合い、人々が互いにナイフを向け合っている。そんな憎しみの応酬が続いている外の世界とは対照的に、この地下には圧倒的な「思いやり」と「理解」しかない。
ここでは誰も、相手が死に近い人間だということをあえて口に出さない。ただ、同じベース音を共有し、同じ歌声に涙する。
TikTokの下手くそな歌声でも、ライブバージョンで増幅されたあの激しいベース音でも、ここではすべてが治療薬だ。音楽が、人をただの「患者」という記号から「一人の人間」へと戻してくれる。
「ねえ、秋生。今のベース音、聞こえた? 先生たちが手術室で流してるやつだよ」
明かりが微笑む。僕たちは看護師として、この音楽が止まらないように守っている。警察も世間も知らない、この地下のライブハウスで、僕たちは音楽を聴き、傷を舐め合い、そして誰よりも長く生きようと抗っている。
地上がどれだけ荒れ狂っていようと、この地下のフードコートでは、今日も誰かの下手な歌が、誰かの命を繋ぎ止めている。病院という名の密室で、僕たちは今夜も、最高の音楽と共に生きている。