パンデミック.新形コロナウイルス
ストレッチャーの金属音と、消毒液の冷たい匂いが鼻腔を刺す。見上げた天井の蛍光灯が規則正しく後ろへ流れていく。その隣には、同じように不安を湛えたニコルが乗っていた。幼い日の恐怖と密かな高揚感が入り混じったまま、二人は同じ寝台に揺られ、手術室の重い自動扉へと吸い込まれていく。
――だが、本当の不条理は、手術が終わったその後に待っていた。
麻酔の残る重い頭を揺らしながら意識が戻る。無機質な手術室の天井。本来であれば、患者の全身状態を管理しながら元の病棟のベッドまで責任を持って送り届けるのが、そこで働く医療従事者の職務であるはずだ。
しかし、現実に起きたのは別の光景だった。
彼らは自らの足で病棟まで患者を送り届けることはしない。受話器を手に取り、病棟へ「迎えに来るように」と事務的な指示を飛ばすだけだ。手術室という閉ざされた聖域にしがみつき、自らの役割を最小限の労力で済ませようとする者たちの姿には、目の前の人間に対する体温の通った気遣いのかけらもない。
患者の術後の苦痛や移動の負担など、彼らにとってはただのルーチンワークの通過点に過ぎないのだろうか。手術室の扉の向こうで、ただ効率と保身だけが静かに稼働している。あの日の冷たい空気と、医療現場の構造的な綻びは、時間が経った今でも、記憶の奥で重く澱んだまま残り続けている。
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