パンデミック.新形コロナウイルス
病院という空間には、世間の常識とは異なる、どこか独特の癖のようなものがあった。特に目の不自由な人間に対する接し方には、それが色濃く表れていた。
通常であれば、誘導する者が半歩前に立ち、手引きをしながら同じ方向へ歩むのがセオリーなのだろう。だが、あの病院の医師や看護師たちは違った。なぜか自分の身体が前を向き、看護師が進行方向とは逆を向いたまま、いわゆる後ろ歩きのかたちで向かい合う。そして、しっかりと両手を繋いだまま、ゆっくりと廊下を進んでいくのだ。
進行方向を見据える者と、一歩一歩の足取りを慈しむように見つめ返す者。真正面から互いの顔を見据え、両手を固く結び合ったまま移動するその奇妙な姿は、客観的に見れば確かにどこか奇異で、滑稽にすら映るかもしれない。
しかし、その独特の体勢には、通常の医療行為や効率的な動線からは決して生まれない、密やかな温もりが満ちていた。背中合わせではなく、真正面から互いの存在を受け止め、視線ではなく手のひらの体温を通じて世界を共有する。
冷徹な医療システムのなかで、なぜかその歩き方だけが、ひどく人間らしく、そして鮮烈な美しさを伴って記憶の底に刻み込まれている。
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