パンデミック.新形コロナウイルス
一般の患者であれば、一刻も早くこんな拘束された空間から逃げ出し、我が家へ帰りたいと願うのが当然の心理だ。それなのに、あの病院に身を置いていると、その当たり前の欲求が不思議なほど麻痺していく。
全身麻酔が脳の奥深くを揺らし、無防備になった意識に染み入る看護師たちの親切心。それは、剥き出しの孤独や不安を優しく包み込み、現実の冷たさから心を完全に麻痺させていく。気づけば、日常の煩わしさや冷淡な現実が待つ外の世界へ戻ることが怖くなり、心のどこかで「このままこの場所に閉じこもっていたい」と願ってしまう。
――退院したくない病。日常生活に戻りたくない病。
本来であれば、治癒の証であり、喜ばしいはずの「退院」というその瞬間に、胸を締め付けるような強い名残惜しさと、言いようのない喪失感が去来する。
痛みを忘れさせるための麻酔と、温もりがもたらす緩やかな毒。それらが混ざり合ったとき、人間は病院という名の特異な繭の中で、現実感覚の糸を一本ずつ手放していく。それこそが、あの白いベッドの底でひそやかに進行していた、恐ろしくも美しい病態心理の正体だった。
全身麻酔が脳の奥深くを揺らし、無防備になった意識に染み入る看護師たちの親切心。それは、剥き出しの孤独や不安を優しく包み込み、現実の冷たさから心を完全に麻痺させていく。気づけば、日常の煩わしさや冷淡な現実が待つ外の世界へ戻ることが怖くなり、心のどこかで「このままこの場所に閉じこもっていたい」と願ってしまう。
――退院したくない病。日常生活に戻りたくない病。
本来であれば、治癒の証であり、喜ばしいはずの「退院」というその瞬間に、胸を締め付けるような強い名残惜しさと、言いようのない喪失感が去来する。
痛みを忘れさせるための麻酔と、温もりがもたらす緩やかな毒。それらが混ざり合ったとき、人間は病院という名の特異な繭の中で、現実感覚の糸を一本ずつ手放していく。それこそが、あの白いベッドの底でひそやかに進行していた、恐ろしくも美しい病態心理の正体だった。