パンデミック.新形コロナウイルス
抗がん剤の副作用に苦しむあかりの、痛みに満ちた呼吸が壁越しに聞こえてくる夜。あるいは、手術の恐怖に震えながら、麻酔の霧のなかで眠れぬままニコルにすがりつき、夜通し言葉を交わしてもらったあの時間。
人の痛みに触れ、その優しさに救われたとき、人間の心はあまりにも無防備に、そして強烈にその相手を求めてしまう。目の前の人がいかに愛おしく、どれほどその存在そのものがかけがえのないものであるか――それに気づいてしまったとき、私たちはただ「好きだ」という感情だけでは収まり切らない、もっと根源的な衝動に突き動かされる。
好きな人が纏うもの、その体温の証しであるすべてが欲しくなる。世間一般の常識や、他人が決めた「綺麗か汚いか」という無機質な物差しなど、あの切実な温もりの前では何の価値も持たない。大好きな人が生きている証、そのものに触れたいという願いは、人間にとって最も自然で、純粋な愛の形なのだから。
命の境界線で交わした痛切な愛おしさと、濁りのない衝動。それこそが、あの白い病棟の奥底で私たちが確かに抱いていた、まぎれもない真実だった。
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