パンデミック.新形コロナウイルス
中学に上がり、少しだけ少女の面影を帯びてきたあかり。その胸の内に膨らみ続ける想いを伝えたいと何度も願いながら、私はどうしてもその一線を越えられずにいた。言葉にしてしまえば、この壊れそうな関係が終わってしまう気がして怖かったのだ。
ある日の午後、抗がん剤の苦痛が少し和らいだのだろうか、あかりはベッドの上で静かにヨーグルトをスプーンですすっていた。身体の弱った彼女にとって、それは数少ない、口にできる消化の良い食事だった。
私は、ヨーグルトがあまり好きではない。普段なら見向きもしないその白い食べ物を、その時ばかりは無性に欲した。いや、正確には、あかりが食べているものと同じものが欲しかったのだ。彼女が口にしているその匙、その空気を、どうしても共有したかった。
あかりの方をまっすぐに指差し、私は「それが食べたい」とねだった。
「あ、それなら新しいのがもう1個あるよ。そっちをあげるから」
ニコルや南ちゃんがそう言ってすぐに別のカップを差し出そうとしたが、私はそれを首を振って拒んだ。
「いや、そうじゃない。それがいいんだ」
無理やりあかりの手にあったカップを奪い取り、あかりが使っていたそのスプーンのまま、一口口に運んだ。
突然のことに、病室の空気が凍りついた。ニコルや南ちゃんが「ちょっと、何やってるの!」と声を荒らげて怒る。あかりも驚き、戸惑いながら、一緒に私を睨むように怒った。
焦った私は、ごまかすようにポケットから新しいヨーグルトを取り出し、「ほら、新しいのと交換だよ!」とあかりに差し出した。
しかし、そんな子供だましの上塗りが通用するはずもない。ニコルたちの鋭い視線は、私の動揺をあっさりと見抜いていた。少し沈黙したあと、ニコルはすべてを察したように呆れたような、けれどどこか優しい笑みを浮かべた。
「……なんだ、あかりちゃんのことが好きだから、そんなことしてたんだ」
その言葉に、南ちゃんも合点がいったように苦笑した。図星を突かれた私は顔を真っ赤にし、弁解すらできなかった。
やり場のない気恥ずかしさと、隠しきれなかった恋心の露見に、あかりはみるみるうちに涙を浮かべた。自分のせいで騒ぎになったこと、そして向けられた剥き出しの好意にどう反応していいか分からず、ただぽろぽろと涙をこぼしていた。
気まずさと愛おしさがぐちゃぐちゃに入り交じった空気の中、それでも私は、あかりの涙を拭う代わりに、そっと新しいヨーグルトの蓋を開けて彼女の手に握らせた。
――しばらくの静寂のあと、中学生になったあかりは、ポツリとこぼした涙を拭いながら、どこか照れくさそうに、そして諦めたような小さな笑みを浮かべた。
言葉足らずで、不器用で、周囲を困らせるだけの子供じみたアプローチ。けれど、あかりはそれに気づいてくれた。私がなぜあんな真似をしたのか、その幼稚な独占欲の裏にある本当の気持ちを、彼女はなんとなく、でも確かに受け止めてくれたのだった。
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