パンデミック.新形コロナウイルス
消毒の匂いが漂うカルテの山を抜け、当直室のソファに並んで腰掛けた夜。僕たちが正式に恋人同士になってから、少しずつ距離感が変わってきたその日、過去の記憶がふと脳裏をかすめた。
あの頃の僕と明りは、何もかもが対照的だった。
僕は勉強がからっきしダメで、教科書を開くだけで頭が痛くなった。一方で、明りは成績優秀で、なんでもそつなくこなす優等生だった。
「ねえ、本当にこんな簡単な問題も分からないの? これだから馬鹿ね」
明りはそう言って、わざと意地悪そうに目を細め、小さく舌を「ベッ」と出して笑った。少し冷ややかなその仕草なのに、なぜか当時の僕は、その不器用な挑発を含んだ笑顔にすっかり心を奪われてしまっていた。馬鹿にされているはずなのに、その横顔を愛おしく感じてしまう自分がいた。
ある日のことだ。
僕たちの周りで一緒に勉強をしようと、なぜかニコルや浜辺美波ちゃんといった華やかな面々が差し入れを持ってやってきた。静かな部屋が一気に賑やかになり、彼女たちは熱心に参考書を開いて色々と話を始めている。
「ほら、ここちゃんと聞いてる? ちゃんとやらないと置いていっちゃうよ」
真面目に説明してくれる周囲の熱気とは裏腹に、僕の視線はすっかり別の場所をさまよっていた。
目の前で、明りがまたいつものように、いたずらっぽく「ベッ」と舌を出して僕をからかっている。その可愛らしい表情だけが網膜に焼き付いて離れず、周りの声なんて耳に入らない。ニコルたちが「ちょっと、何聞いてるの? 全然集中してないじゃない!」と呆れたように声を荒げ、浜辺美波ちゃんもクスッと笑いながら僕の肩を軽く叩く。
「ちょっと、聞いてるの? 私以外のどこ見てるのよ」
明りは少し頬を膨らませ、大きな目をさらに見開いて僕を睨みつける。その大きな瞳と、少し怒ったような、でもどこか嬉しそうな横顔の大げさな仕草――大和田(おおわだ)するほどに感情を剥き出しにして照れ隠しをする彼女の姿を見て、僕はただ心の中で微笑んでいた。
周囲がどれだけ騒ごうとも、僕の視界の中心にはいつも、あの舌をペロッと出した少し勝気な明りの姿しかなかったのだ。
あの頃の僕と明りは、何もかもが対照的だった。
僕は勉強がからっきしダメで、教科書を開くだけで頭が痛くなった。一方で、明りは成績優秀で、なんでもそつなくこなす優等生だった。
「ねえ、本当にこんな簡単な問題も分からないの? これだから馬鹿ね」
明りはそう言って、わざと意地悪そうに目を細め、小さく舌を「ベッ」と出して笑った。少し冷ややかなその仕草なのに、なぜか当時の僕は、その不器用な挑発を含んだ笑顔にすっかり心を奪われてしまっていた。馬鹿にされているはずなのに、その横顔を愛おしく感じてしまう自分がいた。
ある日のことだ。
僕たちの周りで一緒に勉強をしようと、なぜかニコルや浜辺美波ちゃんといった華やかな面々が差し入れを持ってやってきた。静かな部屋が一気に賑やかになり、彼女たちは熱心に参考書を開いて色々と話を始めている。
「ほら、ここちゃんと聞いてる? ちゃんとやらないと置いていっちゃうよ」
真面目に説明してくれる周囲の熱気とは裏腹に、僕の視線はすっかり別の場所をさまよっていた。
目の前で、明りがまたいつものように、いたずらっぽく「ベッ」と舌を出して僕をからかっている。その可愛らしい表情だけが網膜に焼き付いて離れず、周りの声なんて耳に入らない。ニコルたちが「ちょっと、何聞いてるの? 全然集中してないじゃない!」と呆れたように声を荒げ、浜辺美波ちゃんもクスッと笑いながら僕の肩を軽く叩く。
「ちょっと、聞いてるの? 私以外のどこ見てるのよ」
明りは少し頬を膨らませ、大きな目をさらに見開いて僕を睨みつける。その大きな瞳と、少し怒ったような、でもどこか嬉しそうな横顔の大げさな仕草――大和田(おおわだ)するほどに感情を剥き出しにして照れ隠しをする彼女の姿を見て、僕はただ心の中で微笑んでいた。
周囲がどれだけ騒ごうとも、僕の視界の中心にはいつも、あの舌をペロッと出した少し勝気な明りの姿しかなかったのだ。