パンデミック.新形コロナウイルス
病室の空気がふっと張り詰めた。あかねの言葉にしみじみと涙を流していた患者の女性に向かって、ベッドの上で布団をかぶっていた明りが、突然、フッと表情を引き締めて言い放った。
「あのさ、私たちの命がいつかなくなるとか、そういう憐れむようなこと、もう言わないでください」
静まり返った部屋に、明りの透き通るような、しかし強い意志を宿した声が響く。
「命があるとかないとか、そんなのどうでもいいの。私たちは今、こうしてここにいる。確かに秋生くんは変なことばかりするし、さっきだってこんなふうに意味のわからない検査キットでふざけてるけど……」
明りは、先ほど僕がふざけて集めた3人分の検査キットの容器を、ひょいと手にとってみせた。その中には、ささやかな日常の温度を証明するように、僕たちの唾液や名残がしっかりと残っている。
「こんなふうに誰かと笑い合って、怒られて、熱を感じ合えるなら――何も起きない綺麗なだけの無菌室にただ生かされているより、今、この瞬間が何よりも幸せなんだから」
その真っ直ぐな言葉に、あかねははっと息を呑んだ。
そして、自分の言葉が持っていた「死を前提にした優しさ」の残酷さに気づき、慌てて頭を下げた。
「ごめんね……私、そんなつもりで言ったわけじゃなくて……。ただ、彼女に本当の強さを知ってほしくて、でも、言い方が間違ってた。本当にごめんね、明り」
あかねが心から謝罪したその瞬間、張り詰めていた感情の糸がプツリと切れたように、それまで気丈に振る舞っていたニコルと南ちゃんが、堪えきれずに対面したまま声を上げて大泣きし始めた。
悲しいのか、嬉しいのか、それともこの温かさが愛しすぎてたまらないのか、自分でも分からない。ただ、涙がとめどなくあふれて止まらない。
冷え切った外の世界から切り離されたこの小さな病室で、私たちは互いの涙と体温に包まれながら、泣き笑いするように、しっかりと強く、生き続けていた。
「あのさ、私たちの命がいつかなくなるとか、そういう憐れむようなこと、もう言わないでください」
静まり返った部屋に、明りの透き通るような、しかし強い意志を宿した声が響く。
「命があるとかないとか、そんなのどうでもいいの。私たちは今、こうしてここにいる。確かに秋生くんは変なことばかりするし、さっきだってこんなふうに意味のわからない検査キットでふざけてるけど……」
明りは、先ほど僕がふざけて集めた3人分の検査キットの容器を、ひょいと手にとってみせた。その中には、ささやかな日常の温度を証明するように、僕たちの唾液や名残がしっかりと残っている。
「こんなふうに誰かと笑い合って、怒られて、熱を感じ合えるなら――何も起きない綺麗なだけの無菌室にただ生かされているより、今、この瞬間が何よりも幸せなんだから」
その真っ直ぐな言葉に、あかねははっと息を呑んだ。
そして、自分の言葉が持っていた「死を前提にした優しさ」の残酷さに気づき、慌てて頭を下げた。
「ごめんね……私、そんなつもりで言ったわけじゃなくて……。ただ、彼女に本当の強さを知ってほしくて、でも、言い方が間違ってた。本当にごめんね、明り」
あかねが心から謝罪したその瞬間、張り詰めていた感情の糸がプツリと切れたように、それまで気丈に振る舞っていたニコルと南ちゃんが、堪えきれずに対面したまま声を上げて大泣きし始めた。
悲しいのか、嬉しいのか、それともこの温かさが愛しすぎてたまらないのか、自分でも分からない。ただ、涙がとめどなくあふれて止まらない。
冷え切った外の世界から切り離されたこの小さな病室で、私たちは互いの涙と体温に包まれながら、泣き笑いするように、しっかりと強く、生き続けていた。