パンデミック.新形コロナウイルス
そこに、理学療法士の正夫が眉をひそめながら慌てて入ってきた。
「おい、何を軽口叩いてんだよ……!」
正夫は呆れ果てた顔でレントゲンの先生を鋭く睨みつけ、厳しく言い放った。
「自分のしたことをよく考えろよ。普通なら病院の壁に大穴開けようなんて、即刻クビにされても文句言えない大問題だぞ。何をヘラヘラ笑ってんだ、ばかやろう!」
正夫のそのマジメすぎる剣幕に、レントゲンの先生はバツが悪そうに頭を掻きながら、ぶつぶつと言い訳を始めた。
「いや、だってさ……ここの病院のオーナーのやり方がどうも納得いかなくてさ、前々から院長とも大喧嘩になって、ついカッとなって腹いせにドカンと穴を開けちまったんだよ……!」
その裏事情を隠そうともしないお粗末な言い訳を聞いた瞬間、遥は再び堪えきれなくなり、腹を抱えて大笑いした。
「なんだそれ……! そんな大人げない理由で開いた穴だったんですか!」
重苦しかった病室は、再び温かな笑い声に包まれた。
病院側や管理者にとっては、施設の安全を脅かす最悪の「不法な破損箇所」であり、決してあってはならない困った穴だった。しかし、行くあてのない子どもたちや、冷たい社会から閉ざされたこの地下の病棟に生きる私たちにとっては、病院と外の世界――桜坂高校の日常とを繋いでくれる、唯一の温かな「希望の抜け穴」だった。
ただの物理的なコンクリートの破損、その一言で片付けられるようなものではない。
それは、損得勘定や冷徹な社会のシステムに縛られた現代の世の中に対する、ささやかな反逆であり、傷ついた魂同士を結びつける「記憶の霊体性」とでも言うべき、目に見えない深い絆の象徴そのものだった。
冷え切った今の時代の中で、効率や正しさだけでは決して測ることのでえない人間らしい温もりとユーモアが、この崩れた壁の向こう側から、明日へと続く新しい光をそっと運んできてくれていた。
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