パンデミック.新形コロナウイルス
病室の空気が、ふっと凍りついた。
不器用なユーモアで遥を笑わせ、ようやく重苦しい空気がほどけたと思ったその矢先だった。レントゲンの先生は急に真剣な、そしてどこか決意を秘めたような表情になり、おもむろに口を開いた。
「……本当は、ずっと言えなかったんだけどさ」
先生は、俯いたまま掠れた声で続けた。
「君のお母さん……一生懸命、石川先生たちも外科のチームも全員で直そうとして手術したんだけど、……残念ながら、亡くなってしまったんだ。僕なんかがこんな軽い話を挟んで……本当に悪かった。ごめんなさい」
その言葉は、あまりにも唐突で、そして残酷なまでに直球だった。
ユーモアの裏に隠されていた本当の真実が、何のクッションも挟まれることなく、静まり返った病室に投げ出された瞬間だった。
「――え……?」
ニコルや南ちゃんたちは、思わず息を呑み、目を見開いた。
「な、何をいきなり……そんなこと、そんな風に突然……!」
止めようと声を絞り出した時には、すでに遅かった。
遥は呆然と立ち尽くし、それから震える声で叫んだ。
「みんな……なんで私にそれを隠してたの……? なんで、黙ってたの……っ!」
あふれ出る涙を拭おうともせず、遥の瞳から大粒の涙が次々とこぼれ落ちた。隠されていた現実の重みが、一気に彼女の心を押し潰していく。
南ちゃんとニコル、そして明りは、たまらなくなって遥の前に駆け寄った。
「ごめんね、遥ちゃん……。あまりにもショックが大きすぎて、すぐにそんなこと言えなくて……。どう伝えていいかわからなくて、三人で隠し通しちゃったの。本当に、ごめんね……!」
申し訳なさと後悔で、三人は声を詰まらせながら必死に謝罪した。悪意などなかった。ただ、傷ついた彼女をこれ以上壊したくない一心での嘘だった。けれど、その優しさがかえって遥の心を深く抉ってしまったことも事実だった。
気まずさと罪悪感で押しつぶされそうになる病室の中で、レントゲンの先生はガリガリと頭を掻きむしり、どうしようもなさそうに顔を歪めた。
「……くそっ、せっかく僕が場を和ませようと面白いこと言って笑わせたのに、結局最後に全部ぶち壊して、君をまた悲しませちまったな……」
先生は自己嫌悪にじんだ顔を上げると、バツが悪そうにポケットから財布を取り出した。
「……そうだ、僕が全部悪い。今、冷たいジュースでも何でも買ってきてやるからさ。少し落ち着いて、ここで待っててくれ」
そう言い残すと、先生は慌てたように病室を飛び出していき、しばらくして冷えた缶ジュースを何本か抱えて戻ってきた。
震える手で差し出されたジュースを、遥はゆっくりと受け取る。
冷たい缶の感触が、止まらない涙の熱さを少しだけ冷ましていく。傷口はまだ深く、痛むけれど、隠されていた真実と向き合ったその少女の胸には、不器用ながらも必死に自分を繋ぎ止めようとしてくれる周囲の温もりが、確かな重みとなって染み込んでいくのだった。
不器用なユーモアで遥を笑わせ、ようやく重苦しい空気がほどけたと思ったその矢先だった。レントゲンの先生は急に真剣な、そしてどこか決意を秘めたような表情になり、おもむろに口を開いた。
「……本当は、ずっと言えなかったんだけどさ」
先生は、俯いたまま掠れた声で続けた。
「君のお母さん……一生懸命、石川先生たちも外科のチームも全員で直そうとして手術したんだけど、……残念ながら、亡くなってしまったんだ。僕なんかがこんな軽い話を挟んで……本当に悪かった。ごめんなさい」
その言葉は、あまりにも唐突で、そして残酷なまでに直球だった。
ユーモアの裏に隠されていた本当の真実が、何のクッションも挟まれることなく、静まり返った病室に投げ出された瞬間だった。
「――え……?」
ニコルや南ちゃんたちは、思わず息を呑み、目を見開いた。
「な、何をいきなり……そんなこと、そんな風に突然……!」
止めようと声を絞り出した時には、すでに遅かった。
遥は呆然と立ち尽くし、それから震える声で叫んだ。
「みんな……なんで私にそれを隠してたの……? なんで、黙ってたの……っ!」
あふれ出る涙を拭おうともせず、遥の瞳から大粒の涙が次々とこぼれ落ちた。隠されていた現実の重みが、一気に彼女の心を押し潰していく。
南ちゃんとニコル、そして明りは、たまらなくなって遥の前に駆け寄った。
「ごめんね、遥ちゃん……。あまりにもショックが大きすぎて、すぐにそんなこと言えなくて……。どう伝えていいかわからなくて、三人で隠し通しちゃったの。本当に、ごめんね……!」
申し訳なさと後悔で、三人は声を詰まらせながら必死に謝罪した。悪意などなかった。ただ、傷ついた彼女をこれ以上壊したくない一心での嘘だった。けれど、その優しさがかえって遥の心を深く抉ってしまったことも事実だった。
気まずさと罪悪感で押しつぶされそうになる病室の中で、レントゲンの先生はガリガリと頭を掻きむしり、どうしようもなさそうに顔を歪めた。
「……くそっ、せっかく僕が場を和ませようと面白いこと言って笑わせたのに、結局最後に全部ぶち壊して、君をまた悲しませちまったな……」
先生は自己嫌悪にじんだ顔を上げると、バツが悪そうにポケットから財布を取り出した。
「……そうだ、僕が全部悪い。今、冷たいジュースでも何でも買ってきてやるからさ。少し落ち着いて、ここで待っててくれ」
そう言い残すと、先生は慌てたように病室を飛び出していき、しばらくして冷えた缶ジュースを何本か抱えて戻ってきた。
震える手で差し出されたジュースを、遥はゆっくりと受け取る。
冷たい缶の感触が、止まらない涙の熱さを少しだけ冷ましていく。傷口はまだ深く、痛むけれど、隠されていた真実と向き合ったその少女の胸には、不器用ながらも必死に自分を繋ぎ止めようとしてくれる周囲の温もりが、確かな重みとなって染み込んでいくのだった。