パンデミック.新形コロナウイルス
荒れ狂うような空気に包まれた病室へ、心理カウンセラーである茜が険しい表情を浮かべて飛び込んできた。彼女はレントゲンの先生を見据えると、怒りを押し隠すような鋭い声で言い放った。
「あなた、一体何を考えているんです……! 真実を伝えること自体はいつか必要だったかもしれないけれど、あなたにそれを告げる義務なんてないでしょう? 何も知らない部外者が、そんな無責任なやり方で飛び込んで……遥ちゃんの心がどれだけ深く傷ついたと思っているんですか!」
ピリピリとした緊張感が走る中、茜はピシャリと先生を叱り飛ばした。
だが、その緊迫した空気をよそに、先生はどこか投げやりな、しかし妙に真剣な目でふっと息を吐き出すと、開き直ったようにこう言ったのだ。
「……悪いかよ。だって、俺は遥ちゃんのことが……好きだったんだよ」
「……は? 何? もう一回、何て言ったの?」
茜は我が耳を疑ったように目を見張り、声を裏返させた。
「60近いおじさんが、何を言っていの? なんであんな高校生の女の子に本気で惚れてるわけ?」
呆れと怒りが混ざった茜の追及に、レントゲンの先生は気まずそうに頭を掻きながら、フワフワとした生クリームのショートケーキ(それは桃を3個も使った、彼女を元気づけるためのものだったが)を片手に、ぶっきらぼうにつぶやいた。
「なんでって言われても……好きになっちまったもんはしょうがないだろ。どうしてって理由なんてない。俺は……本気で遥と一緒にになりたかったんだよ。だから、いつまでも嘘をついて周りが隠し通そうとしているのが我慢できなかったんだ……。全部バラしてしまったのは悪かったよ、明日、ちゃんと本人に謝るからさ……」
「もう二度と、遥ちゃんに余計なちょっかいを出さないでください! あとの心のケアは、私がカウンセラーとしてしっかり向き合ってなんとかしますから!」
茜が冷たくそう言い放つと、先生はバツが悪そうに肩を落とし、「……じゃあ、これ、よかったら食べてくれ」と桃のケーキをそっとテーブルに置き、すごすごと引き下がろうとした。
その瞬間だった。
「――ふざけないで……っ!」
それまで静かにうつむいていた遥が、突然ガバッと起き上がった。怒りと悲しみ、そしてやり場のない絶望がごちゃまぜになったその瞳には、ギラギラとした激しい憎悪の炎が宿っていた。
遥は、目の前にいたレントゲンの先生に向かって思いっきり足を振り上げ、渾身の力を込めてその体を激しく蹴飛ばした。
「ぐわっ……!」
不意を突かれた先生は、バランスを崩してドスンと派手な音を立てて床に転がり、桃のケーキは無残にもぐしゃりと潰れてしまった。
病室に静まり返る一同。誰もが言葉を失う中、心理カウンセラーの茜は、倒れ込んだ先生を一瞥すると、驚くどころか、むしろ満足げにふっと微笑んだ。
「……うん、それでいいんです。それが正解なんですよ」
茜は静かな声でそう告げた。
「カウンセリングっていうのは、綺麗な言葉を並べて慰めることだけじゃない。理不尽な運命に引き裂かれ、抑えきれなくなったその怒りも、憎しみも、目の前のたった一人の人間(対象)にぶつけてすべて吐き出すこと――それこそが、心臓の奥底に溜まった毒を外へ追い出す、本当のカウンセリングなんですから」
「あなた、一体何を考えているんです……! 真実を伝えること自体はいつか必要だったかもしれないけれど、あなたにそれを告げる義務なんてないでしょう? 何も知らない部外者が、そんな無責任なやり方で飛び込んで……遥ちゃんの心がどれだけ深く傷ついたと思っているんですか!」
ピリピリとした緊張感が走る中、茜はピシャリと先生を叱り飛ばした。
だが、その緊迫した空気をよそに、先生はどこか投げやりな、しかし妙に真剣な目でふっと息を吐き出すと、開き直ったようにこう言ったのだ。
「……悪いかよ。だって、俺は遥ちゃんのことが……好きだったんだよ」
「……は? 何? もう一回、何て言ったの?」
茜は我が耳を疑ったように目を見張り、声を裏返させた。
「60近いおじさんが、何を言っていの? なんであんな高校生の女の子に本気で惚れてるわけ?」
呆れと怒りが混ざった茜の追及に、レントゲンの先生は気まずそうに頭を掻きながら、フワフワとした生クリームのショートケーキ(それは桃を3個も使った、彼女を元気づけるためのものだったが)を片手に、ぶっきらぼうにつぶやいた。
「なんでって言われても……好きになっちまったもんはしょうがないだろ。どうしてって理由なんてない。俺は……本気で遥と一緒にになりたかったんだよ。だから、いつまでも嘘をついて周りが隠し通そうとしているのが我慢できなかったんだ……。全部バラしてしまったのは悪かったよ、明日、ちゃんと本人に謝るからさ……」
「もう二度と、遥ちゃんに余計なちょっかいを出さないでください! あとの心のケアは、私がカウンセラーとしてしっかり向き合ってなんとかしますから!」
茜が冷たくそう言い放つと、先生はバツが悪そうに肩を落とし、「……じゃあ、これ、よかったら食べてくれ」と桃のケーキをそっとテーブルに置き、すごすごと引き下がろうとした。
その瞬間だった。
「――ふざけないで……っ!」
それまで静かにうつむいていた遥が、突然ガバッと起き上がった。怒りと悲しみ、そしてやり場のない絶望がごちゃまぜになったその瞳には、ギラギラとした激しい憎悪の炎が宿っていた。
遥は、目の前にいたレントゲンの先生に向かって思いっきり足を振り上げ、渾身の力を込めてその体を激しく蹴飛ばした。
「ぐわっ……!」
不意を突かれた先生は、バランスを崩してドスンと派手な音を立てて床に転がり、桃のケーキは無残にもぐしゃりと潰れてしまった。
病室に静まり返る一同。誰もが言葉を失う中、心理カウンセラーの茜は、倒れ込んだ先生を一瞥すると、驚くどころか、むしろ満足げにふっと微笑んだ。
「……うん、それでいいんです。それが正解なんですよ」
茜は静かな声でそう告げた。
「カウンセリングっていうのは、綺麗な言葉を並べて慰めることだけじゃない。理不尽な運命に引き裂かれ、抑えきれなくなったその怒りも、憎しみも、目の前のたった一人の人間(対象)にぶつけてすべて吐き出すこと――それこそが、心臓の奥底に溜まった毒を外へ追い出す、本当のカウンセリングなんですから」