パンデミック.新形コロナウイルス
世界がコロナ禍の緊急事態宣言という厳戒態勢に包まれ、誰もがピリピリと息を潜めていたその最中、地上では信じられないような光景が繰り広げられていた。
あの夏美の実家を襲撃し、暴れ回った風俗店が、なんと全国ニュースの格好の標的になってしまったのだ。『Nスタ』に続き、『フジテレビ』のクルーまでが押し寄せ、街の生中継が始まった。
「いやぁ、こんな緊急事態の中でも、この街の風俗店は元気に営業してますねえ! お客さんも次々に入っていきますよ!」
テレビカメラの前で、レポーターが面白おかしくコロナ禍のモラルなき実態をリポートしていく。店を牛耳る荻会長が「おい、カメラ止めてくれ、やめてくれって!」と苦い顔で怒鳴り声を上げ、マイクを払い除ける姿までそのまま電波に乗って全国に流れてしまった。
さらに街の一角では、とんでもない商売までが芽を出していた。風俗店のすぐ近くに謎の「マスク屋さん」が出現し、そこで働く女の子たちが実際に使用した使用済みマスクが、なぜか飛ぶように売られていたのだ。
あろうことか、夏美の使っていたマスクもそこで売りに出されており、それを知った僕は、欲に目がくらむようにして思わずそのマスクを買い求めてしまった。常識から見れば、あまりにもとんちんかんで、おぞましくすらある狂気の沙汰だった。
だが、そんな世間の白い目や倫理の枠組みなど、当時の僕にとってはちっぽけなことにすぎなかった。どれほど変態的だと笑われようとも、世間にどう叩かれようとも、僕はただ夏美と深く結ばれ、あの地下の闇の中で彼女と心から仲良くしたかった。
テレビカメラの向こう側、野次馬の視線が集まるその生中継の最中、僕は突如としてマイクの前に飛び出し、テレビクルーに向かって必死の形相で語りかけた。世間の常識がいかに崩れ去っていようとも、僕はこの歪んだ世界の中で、彼女を愛し抜くことだけを熱っぽく、真剣に訴え続けていたのだった。
< 377 / 417 >

この作品をシェア

pagetop