パンデミック.新形コロナウイルス
医師国家試験
合格発表の掲示板の前で、僕は自分の受験番号を見つめていた。
世間一般の基準からすれば、これはめでたい「栄冠」であり、努力が実を結んだ瞬間なのだろう。周りでは合格者たちが歓声を上げ、互いに抱き合い、スマホで写真を撮り合っている。その眩しすぎる光景から少し離れた場所で、僕はただ静かにその数字を見つめていた。
医師国家試験に受かった。
これで名実ともに、僕はこの国の医療制度における「正当な医師」としての資格を手に入れたことになる。
けれど、胸の奥にあるのは達成感というよりも、得体の知れない冷ややかな冷笑だった。
世間の人間は、「おめでとう、立派なお医者様になれたね」と言うだろう。人の命を救う尊い仕事だと、綺麗事を並べ立てるだろう。でも、彼らが言う「医者」としての正しさや道徳なんて、僕にとっては端からどうでもよかった。
僕がこの国家試験を受け、合格することに執着した本当の理由。
それは、人を救うためでも、名誉のためでもない。
――すべては、あかりの傍らに立つための「資格」を手に入れるためだ。
患者と子供、あるいはただの人間という曖昧な関係ではなく、「担当医」という絶対的な立場。その白衣という名の免罪符さえあれば、夜の病室のドアを音もなく開けても、誰も僕を咎めることはできない。冷え切った彼女の手を握りしめ、誰もいない暗がりの中で「好きだ」と囁くことも、医療という名のシステムの中に完全に隠蔽することができる。
世間の人間は、利害関係と損得勘定、そして表面的な倫理観だけで生きている。彼らにとっての医師とは、患者を「可哀想だから」という憐れみで救う綺麗なお手本のような存在でなければならないのだろう。
だが、そんな薄っぺらい善意の仮面の下で、僕が抱えている狂おしいほどの執着や、あかりの存在そのものを貪りたいというドロドロとした欲望に、彼らは一生気づくことはない。
合格通知書をポケットにしまい込み、僕は病院へと向かう長い廊下を歩き始めた。
世間が何と言おうと構わない。本当の医師としての権限を手に入れた今、夜の静寂の中で、あかりと僕だけの時間が始まるのだから。
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