パンデミック.新形コロナウイルス
夏美ちゃんがかつて抱えていた深い闇や痛みのことを思い出すと、胸が締め付けられるようだった。
親から勘当されて激しく落ち込み、一時は風俗店に身を置くほどの過酷な生活を送っていた彼女。しかも、その風俗店の店長が「大原さくら」の曲を大声で歌いながら夏美ちゃんの家を文字通りぶっ壊し、毒親である親を強引にやっつけるという、常軌を逸した事件さえあった。それが結果的に良かったのかどうか、倫理的に見ればなんとも言えないハプニングだったけれど――そのおかげで夏美ちゃんは縛りから解放され、今こうして僕たちのそばで一緒に暮らすことができるようになったのだ。それだけでも、この奇妙な巡り合わせは彼女にとって救いだったに違いない。
そして、夏美ちゃんが働き始めたこの特別な「海の家」にも、深い理由があった。
一般的な海の家といえば夕方の4時や5時には店を閉めてしまうものだが、この病院の裏手にある海の家は、夜の11時という遅い時間まで営業していた。
それもそのはず、この海の家を仕掛け、作り上げたのは夏美ちゃんなのだった。
彼女自身が過酷な人生経験や深い傷を負ってきたからこそ、障害や難病を抱える人々に対する温かい理解と優しさが誰よりもあった。XP(色素性乾皮症)などの理由で昼間の太陽を絶対に浴びられない人たちが、夜の闇に乗じて心から夏の海を楽しめるように――そんな切実な思いを込めて、彼女はこの夜遅くまでの営業を実現させたのだ。
昼ではなく、月の光と潮風に包まれながら、夜の砂浜で笑顔を取り戻した夏美ちゃん。
かつての暗い影を完全に振り払い、いきいきと働くその姿を見ていると、僕の胸には深い安堵と、この場所で生きる者同士の確かな絆がじんわりと広がっていった。
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