パンデミック.新形コロナウイルス
テレビの音声が静かにフェードアウトし、平和記念式典の特別番組が終わりを告げた。
ラウンジに集まっていた患者たちや病院の関係者たちも、それぞれの思いを胸に、ゆっくりと席を立ち始めていく。車椅子を押す看護師たちの足音、静かに交わされる挨拶の声。いつもの病院の日常へと、世界が戻っていく時間だった。
「さてと……私たちも、そろそろ戻ろっか」
あかりが少しだけ表情を和らげ、僕の手を引いた。その柔らかい手の温もりが、さっきまで胸の内に渦巻いていた時代の冷たさや寂しさを、優しくとかしていくのが分かった。
「そうだね。地下に戻ろっか」
僕たちは立ち上がり、再び長い廊下を並んで歩き出した。
エレベーターに乗り込み、一番上の階から地下へと下っていく。ガタンと小さな振動とともに、扉が開くと、そこにはいつものひんやりとした空気の地下病棟が広がっていた。
けれど、不思議と息苦しさは感じなかった。
たとえ外の世界や時代がどれほど冷たく変わっていこうとも、僕たちにはあの夜の海の家があり、コーヒーの温もりがあり、夏美ちゃんやニコル、そしてでっかい猫と一緒に笑い合った記憶がある。そして何より、この胸の中には、あかりと交わした確かな約束が灯っているのだから。
病室の扉を開け、あかりをベッドへと案内する。
「ねえ、明くん。また今度、夜になったら……あの海の星、見に行こうね」
ベッドに腰掛けたあかりが、満面の笑みでそう言った。
「もちろん。今度はもっと綺麗な星が見られるように、僕がちゃんと窓を開けておくよ」
僕たちは顔を見合わせ、心からの笑みを交わした。
外の世界がどんなに移り変わろうとも、僕たちの心にある季節は、永遠にあの優しく温かい夏の夜のまま、決して色あせることはなかった。
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