パンデミック.新形コロナウイルス
あかりを病室のベッドに見送り、部屋を出たあと、僕は自分の担当する持ち場へと戻った。
地下の静寂な空気の中、無機質な蛍光灯の光が白く照り輝いている。いつもなら孤独や閉塞感を覚えるはずのこの空間も、今日の僕の心には、あの海の家で感じた温かな余韻がしっかりと息づいていた。
ふと廊下の角を曲がると、白衣を着た医師の姿が目に入った。あかりの担当医であるその人は、少し疲れた顔をしながらも、手元のカルレを真剣な表情でめくっていた。
「お疲れ様です、先生」
僕が声をかけると、医師は顔を上げ、穏やかに微笑んだ。
「おや、明くん。……さっきラウンジのテレビを見ていたようだな。広島や長崎の式典、そしてあかりさんの様子はどうだった?」
「はい……少し涙を流していましたけど、最後はしっかり前を向いていました。僕たち、時代の流れとか、これからのこととか、色々と考えさせられました」
医師は小さくうなずき、胸ポケットからペンを取り出しながら静かに言った。
「そうだな……。あかりさんのようなXP(色素性乾皮症)の患者たちにとって、光の怖さは命に直結するものだ。それは、あの戦争で放射線に苦しんだ人たちの痛みともどこか通じるものがあるかもしれない。目に見えない脅威に怯えながら生きるというのは、本当に過酷なことだ」
医師の言葉には、日頃から患者たちと向き合ってきた者ならではの重みと、深い慈愛がこもっていた。
「だからこそ、あかりさんにとって、君と一緒に過ごす夜の時間や、あの海の家のような場所は、何ものにも代えがたい救いになっているんだと思うよ」
「……ありがとうございます」
胸の奥が熱くなるのを覚えながら、僕は深く頭を下げた。
医者や看護師たちも、表立っては言わないまでも、地下で光を避けて生きる患者たちの閉ざされた心を少しでも和らげようと、それぞれの方法で支えてくれているのだ。
「さて、僕も次の回診に行かなくてはならない。明くんも、自分の仕事をしっかり頼むよ。あかりさんのそばにいてやれるのは、今のところ君しかいないんだからね」
医師はそう言って軽く肩を叩き、足早に廊下の向こうへと去っていった。
その言葉を胸に刻み、僕は再び自分の持ち場へと歩き出す。
昼と夜の境界、光と闇の狭間にあるこの病院で、僕にできることは何か。あかりと、そしてこの場所で生きる仲間たちと、温かい笑顔を絶やさずに明日へ繋いでいくことだ。
次の夜が訪れるその時まで、僕はしっかりと前を向いて、今日という一日を歩んでいこうと心に誓った。
地下の静寂な空気の中、無機質な蛍光灯の光が白く照り輝いている。いつもなら孤独や閉塞感を覚えるはずのこの空間も、今日の僕の心には、あの海の家で感じた温かな余韻がしっかりと息づいていた。
ふと廊下の角を曲がると、白衣を着た医師の姿が目に入った。あかりの担当医であるその人は、少し疲れた顔をしながらも、手元のカルレを真剣な表情でめくっていた。
「お疲れ様です、先生」
僕が声をかけると、医師は顔を上げ、穏やかに微笑んだ。
「おや、明くん。……さっきラウンジのテレビを見ていたようだな。広島や長崎の式典、そしてあかりさんの様子はどうだった?」
「はい……少し涙を流していましたけど、最後はしっかり前を向いていました。僕たち、時代の流れとか、これからのこととか、色々と考えさせられました」
医師は小さくうなずき、胸ポケットからペンを取り出しながら静かに言った。
「そうだな……。あかりさんのようなXP(色素性乾皮症)の患者たちにとって、光の怖さは命に直結するものだ。それは、あの戦争で放射線に苦しんだ人たちの痛みともどこか通じるものがあるかもしれない。目に見えない脅威に怯えながら生きるというのは、本当に過酷なことだ」
医師の言葉には、日頃から患者たちと向き合ってきた者ならではの重みと、深い慈愛がこもっていた。
「だからこそ、あかりさんにとって、君と一緒に過ごす夜の時間や、あの海の家のような場所は、何ものにも代えがたい救いになっているんだと思うよ」
「……ありがとうございます」
胸の奥が熱くなるのを覚えながら、僕は深く頭を下げた。
医者や看護師たちも、表立っては言わないまでも、地下で光を避けて生きる患者たちの閉ざされた心を少しでも和らげようと、それぞれの方法で支えてくれているのだ。
「さて、僕も次の回診に行かなくてはならない。明くんも、自分の仕事をしっかり頼むよ。あかりさんのそばにいてやれるのは、今のところ君しかいないんだからね」
医師はそう言って軽く肩を叩き、足早に廊下の向こうへと去っていった。
その言葉を胸に刻み、僕は再び自分の持ち場へと歩き出す。
昼と夜の境界、光と闇の狭間にあるこの病院で、僕にできることは何か。あかりと、そしてこの場所で生きる仲間たちと、温かい笑顔を絶やさずに明日へ繋いでいくことだ。
次の夜が訪れるその時まで、僕はしっかりと前を向いて、今日という一日を歩んでいこうと心に誓った。