もう誰かを愛せはしない
既に控え室に着いていた翔介と亮太は、控え室の前の喫煙所で煙草を吸いながら楽しそうに話している。



翔介が煙草を吸うのなんて初めて見た。



「ショウスケ、煙草吸うんだね」

「あれ?知らなかった?」

「知らなかったから聞いたんでしょ」



翔介が握っていた煙草の箱に目をやると、見覚えのある銘柄の煙草だった。




「…あ。ライハと同じ煙草…」



同棲していた時、小さなテーブルにいつも置いてあった箱。


料理が並べられないからテーブルに置かないでって、よく礼羽に言っていた気がする。




翔介が礼羽と同じ匂いがするのは、香水のせいだけじゃなかったんだね。




「ライハって元彼だよね。…じゃあ俺、煙草変えようかな」

「何で?」

「メイサが元彼を思い出すのが嫌だから」



翔介はそう言うと吸い殻入れに煙草を捨てた。



張られた水に落ちた煙草は、ジュッと音を立てて火を消した。




「何か怒ってる?ショウスケ、眉間に皺寄ってるよ」



何故かご機嫌ナナメの翔介の眉間をトントンとつつくと、翔介は余計ブスッと顔を膨らませた。



何に怒ってるのよ。

この20歳の子どもは。





「翔ちゃ〜ん?」



そう呼ぶと、翔介はピクッと反応したけど無言のまま。



ふふ。

拗ねてるクセに翔ちゃんと呼ばれたのは嬉しいんだ。



よし、ならこれならどうだ。




「何拗ねてんのよ、ダーリンは」



ダーリンと呼んであげたら、翔介は眉間に皺を寄せたまま口元を緩めて私を抱きしめた。



「……負けた」

「あはは。ショウスケは単純だなぁ」

「あっ!ショウスケに戻ってる!!もっかいダーリンって言って♪」

「もう言わなーい」




美佳。
私、大丈夫みたい。



確かに礼羽を忘れられてないのかもしれない。




でも、翔介といて

ちゃんと翔介を愛しいって思えてるよ。




だから大丈夫。
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