もう誰かを愛せはしない
「噂をすれば神崎くんよ」



美佳が指差す方を見ると、キャンパスの中を歩いている礼羽がいた。




あれ…。
何か痩せた?


凄くやつれてるように見えるけど。




「神崎くん、何だか疲れた顔してるね」

「…うん」




……もしかして

いや、もしかしなくても



2人のバイト代を合わせてギリギリの生活だったんだから


1人になった今、礼羽は生活という生活が出来ていないんじゃ…





「…美佳、私講義サボる。代返しといて」

「え?どこ行くのよ!?」



美佳の質問に答える前に、私は走ってキャンパスから出て行った。





私はまだ礼羽の彼女だもん。

そばにいられなくても、出来る事はしたい。




そんな事を思いながら、私は礼羽のアパートに着いた。




あ…
合鍵返しちゃったんだった。


どうしよう…
中に入れないじゃん。




そう思いながら一応ドアノブに手を掛けると、鍵は掛かっていなかった。



不用心だな、礼羽は。





「…お邪魔しまーす」



無意識に口から出た言葉が、もうここは自分の家じゃないのだと教える。



1ヶ月ぶりに入る部屋は、こんなに広かったっけと思う程、殺風景だった。
< 71 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop