シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
タイセイはそれとなくエラの様子をうかがった。彼女は、なぜがキッチュな雑貨との出会いに夢中になって、店先ではしゃいでいる。もうタイセイのことなど忘れているようだった。今だ!。タイセイはそんなエラを残し足早に街を離れた。
次の目的地は、荷李活道(ハリウッドロード)のスタート地点にあるショップ「HULACAMP」。 オーナーは、パキスタン人でありながらも香港の業界屈指のビジネスマン。国籍に問わず誰でもビジネスを起こせるのは、さすが国際商業都市香港といえる。
このオーナーは、日本の新しいものに目がなく、それらを収集して、遊び心満載でここにショップを作った。商品のメインは、カシオの時計とハリオガラス。日本では違和感のある品揃えぞろえだが、それがここではいたって自然に陳列台に並んでいる。
不思議なことにカシオは日本のブランドなのに、日本で手に入りにくい限定モデルがこの店にずらりと揃っている。もちろん、タイセイのお目当ては、日本では手に入らないモデルのカシオ時計だった。
ひとしきり買い物を楽しんで、お気に入りの時計を腕に巻いたタイセイは、満足げに店を出る。次の目的は荷李活道(ハリウッドロード)に対して細く平行に位置する新街(ニューストリート)。
さて、歩みを進めようとするのだが、なぜかその一歩が踏み出せない。そういえば彼女はどうしたのだろうか。自分を見失って諦めて、どこかに行ってしまったに違いない。それで「良かった」という気持ちに、妙な「気がかり」の風が吹きつける。足が勝手に摩羅上街(キャット・ストリート)へ戻る道へ動いていった。
摩羅上街(キャット・ストリート)の入口についたタイセイは、店が立ち並ぶ方向を恐る恐るのぞいてみた。
彼女の姿はなかった。当たり前の結果に、ただうなずくタイセイ。それは、見方によれば、何かを自分に言い聞かせている仕草と言えないこともなかった。
さて気持ちも新たに、次の街へ行くかと摩羅上街(キャット・ストリート)に背を向けた瞬間、遥か遠方の道端でスケッチブックを胸にだきかかえ、途方に暮れたようにしゃがみこんでいる彼女を視界の端に捉えた。