シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
「いえそんな…私は出稼ぎのメイド、アーティストってわけじゃないですよ」
照れくさいのか、早足になったエラを、笑いながら追うタイセイ。やがて、ふたりは閑静な高級住宅街、ミッドレベル・セントラルに佇む白亜のカトリック教会にたどり着いた。
エラは無言で胸の前でクロスを切り、膝を曲げてこうべを垂れた。敬虔なクリスチャンであるフィリピーナであるからこその、自然なしぐさであった。
「ちょっと入ってみましょうか」
タイセイが気軽にエラを誘った。
そこは、天主教聖母無原罪主教座堂(Cathedral of the Immaculate Conception)。長さ83メートル、幅40メートル。白く輝くゴシック・リヴァイヴァル建築のその教会は、最大千名を収容できる大聖堂である。
ゴシックの特徴的な柱に支えられた高い天井。その天井窓から差し込む光は、間接光となってやわらかく室内や祭壇を浮き上がらせる。派手なステンドグラスなどなく、室内に溢れる光があくまでも白いことが、この空間の荘厳さを際立たせている。
アジアと言えども、長年キリスト教文化の国に統治された香港の教会である。さすがにその空間には、歴史的な重みがあるとタイセイは感じていた。
エラが祭壇の前のイスにひざまずくと祈り始めた。
クリスチャンでもないタイセイは、隣のイスに座って、手持無沙汰にそんなエラの姿を眺めていた。
ようやく長い祈りを終えたエラに、タイセイは話しかけた。
「ひとつ聞いてもいいいかな…」
「なんです」
「そのスケッチブックに描かれている絵の中で…」
「また絵の話しですか」
「いや…気になったことがあって…」
タイセイがエラのスケッチブックに視線を送った。
「同じような人物が何回も出てくるんだけど…誰?シルエットから察するに、多分女性だと思うんだけど…」
「ああ、この絵ですね…これは私のマリア様ですよ」
エラはタイセイの問いに答えるのに重ねて、祭壇上のイエス・キリストを見上げた。
「でも…なんで顔がぼやけているの?」
繰り返されるタイセイの問いに、答えていいかどうか戸惑っていたエラだったが、覚悟を決めたのかゆっくりと語り始めた。
「実はわたし、小さい頃に目を怪我して…その怪我が原因で両目とも見えなくなったのです。でも突然私のマリア様が…」
照れくさいのか、早足になったエラを、笑いながら追うタイセイ。やがて、ふたりは閑静な高級住宅街、ミッドレベル・セントラルに佇む白亜のカトリック教会にたどり着いた。
エラは無言で胸の前でクロスを切り、膝を曲げてこうべを垂れた。敬虔なクリスチャンであるフィリピーナであるからこその、自然なしぐさであった。
「ちょっと入ってみましょうか」
タイセイが気軽にエラを誘った。
そこは、天主教聖母無原罪主教座堂(Cathedral of the Immaculate Conception)。長さ83メートル、幅40メートル。白く輝くゴシック・リヴァイヴァル建築のその教会は、最大千名を収容できる大聖堂である。
ゴシックの特徴的な柱に支えられた高い天井。その天井窓から差し込む光は、間接光となってやわらかく室内や祭壇を浮き上がらせる。派手なステンドグラスなどなく、室内に溢れる光があくまでも白いことが、この空間の荘厳さを際立たせている。
アジアと言えども、長年キリスト教文化の国に統治された香港の教会である。さすがにその空間には、歴史的な重みがあるとタイセイは感じていた。
エラが祭壇の前のイスにひざまずくと祈り始めた。
クリスチャンでもないタイセイは、隣のイスに座って、手持無沙汰にそんなエラの姿を眺めていた。
ようやく長い祈りを終えたエラに、タイセイは話しかけた。
「ひとつ聞いてもいいいかな…」
「なんです」
「そのスケッチブックに描かれている絵の中で…」
「また絵の話しですか」
「いや…気になったことがあって…」
タイセイがエラのスケッチブックに視線を送った。
「同じような人物が何回も出てくるんだけど…誰?シルエットから察するに、多分女性だと思うんだけど…」
「ああ、この絵ですね…これは私のマリア様ですよ」
エラはタイセイの問いに答えるのに重ねて、祭壇上のイエス・キリストを見上げた。
「でも…なんで顔がぼやけているの?」
繰り返されるタイセイの問いに、答えていいかどうか戸惑っていたエラだったが、覚悟を決めたのかゆっくりと語り始めた。
「実はわたし、小さい頃に目を怪我して…その怪我が原因で両目とも見えなくなったのです。でも突然私のマリア様が…」