シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
「折角ですが『網膜記憶』の研究でしたらお断りいたします」
タイセイはきっぱりと断った。しかし、リーダーはあらかじめその答えを知っていたかのように平静な態度を崩さない。
「ですから、もうホテルに帰してください」
「ドクター。そう簡単にお断りにならないでください。ここは一国二制度の香港とはいえ、中華民国ですよ。我が国を軽んじてもらっては困ります」
タイセイは憤りに少しずつ恐れの霧がかかり始めるのを自覚した。
「ドクターを我が国の重要機密情報を盗み出そうとしたスパイにすることなんて、簡単にできるのですよ」
「そんなことしたら、国際的人権問題に…」
「日本政府とは、膨大な外交問題を抱えています。譲歩したり譲歩されたりを繰り返して大局を動かしているさなかに、こんな些細なことに本気になるとは思えませんね」
タイセイは絶句せざるを得なかった。
「一生中国本土の留置場で暮らすか、裕福で名誉ある教授の地位を得て、研究に没頭いただくか、その選択はドクターの決断ひとつです」
「そんな…選択の余地はないじゃないですか」
「そう、選択肢のない決断の強要。それが共産主義国家の発展を支えているのです」
民主主義の国から来たタイセイには、今まで味わったことのない恐怖である。民衆の上に覆いかぶさった国家とは、ここまで恐ろしいものなのかと心底思った。
「仮に、その申し出を受けたら…帰国できるのですか」
「すぐの帰国はなかなか難しいですが、ドクターの協力度いかんでは許されるかもしれませんね」
「かもって…」
「どうですか、ここは腰を据えて中国の英雄になるのも、そう悪くはないと思いますよ」
にこりともせず言い放つリーダーの冗談は、より冷たい冷気を浴びせてタイセイの体をこわばらせる。
「どんなに嫌だといっても、このままどこかへ連れていかれてしまうのでしょう」
「いや…ドクターの研究を信用していないわけではないのですが、今後も上層部が安心できる、ちょっとした実験をしていただければなりません」
「どういうことです」
「こちらへどうぞ」
リーダーはそう言うと、倉庫の奥にタイセイを導いた。
熱い扉が明けられそこに冷たい照明が当てられると、そこには最新の医療機器や医学的研究機器が並ぶラボラトリーになっていた。
タイセイはきっぱりと断った。しかし、リーダーはあらかじめその答えを知っていたかのように平静な態度を崩さない。
「ですから、もうホテルに帰してください」
「ドクター。そう簡単にお断りにならないでください。ここは一国二制度の香港とはいえ、中華民国ですよ。我が国を軽んじてもらっては困ります」
タイセイは憤りに少しずつ恐れの霧がかかり始めるのを自覚した。
「ドクターを我が国の重要機密情報を盗み出そうとしたスパイにすることなんて、簡単にできるのですよ」
「そんなことしたら、国際的人権問題に…」
「日本政府とは、膨大な外交問題を抱えています。譲歩したり譲歩されたりを繰り返して大局を動かしているさなかに、こんな些細なことに本気になるとは思えませんね」
タイセイは絶句せざるを得なかった。
「一生中国本土の留置場で暮らすか、裕福で名誉ある教授の地位を得て、研究に没頭いただくか、その選択はドクターの決断ひとつです」
「そんな…選択の余地はないじゃないですか」
「そう、選択肢のない決断の強要。それが共産主義国家の発展を支えているのです」
民主主義の国から来たタイセイには、今まで味わったことのない恐怖である。民衆の上に覆いかぶさった国家とは、ここまで恐ろしいものなのかと心底思った。
「仮に、その申し出を受けたら…帰国できるのですか」
「すぐの帰国はなかなか難しいですが、ドクターの協力度いかんでは許されるかもしれませんね」
「かもって…」
「どうですか、ここは腰を据えて中国の英雄になるのも、そう悪くはないと思いますよ」
にこりともせず言い放つリーダーの冗談は、より冷たい冷気を浴びせてタイセイの体をこわばらせる。
「どんなに嫌だといっても、このままどこかへ連れていかれてしまうのでしょう」
「いや…ドクターの研究を信用していないわけではないのですが、今後も上層部が安心できる、ちょっとした実験をしていただければなりません」
「どういうことです」
「こちらへどうぞ」
リーダーはそう言うと、倉庫の奥にタイセイを導いた。
熱い扉が明けられそこに冷たい照明が当てられると、そこには最新の医療機器や医学的研究機器が並ぶラボラトリーになっていた。