シンデレラの網膜記憶~魔法都市香港にようこそ
「息子さんを最後に乗せたタクシーの運転手を見つけ出したよ。ただ、中々口を開こうとしなかったようだから、本土の役人と香港マフィアのどちらが恐ろしいか気付かせてやったようじゃ。香港人なら当然わかることだろうに…」

 ドラゴンヘッドは不敵な笑いを浮かべて、キセルを口にくわえる。

「彼らの狙いは息子だったのね…で、息子は無事なの?まだ香港に居るの?」
「まだわからん…しかし、息子さんを探す手がかりはなんとか見つけたようじゃ」

 ドラゴンヘッドは煙を吐きながら言葉をつなげた。

「10日前、息子さんとデートしていた女を覚えているだろう」
「ええ」
「その女を見つけることができた」
「やっぱり総参謀部の仲間かなにかだったの?」
「いや、フィリピンから出稼ぎに来ている普通のメイドだ」
「普通のメイド…」
「まったく偶然なのだが、そのメイドが、昨夜組織の配下の薬局に来たらしい。店員が顔を覚えておって、写真の女に間違いないと」
「あら、香港マフィアさんは、薬局なんて堅気な商売もしているの?」
「薬局って言ってもな、普通じゃ手に入らない危ない薬も各種取り揃えておって、処方箋不要で誰にでも販売している。その女が買っていったのは、重度の睡眠薬『フルニトラゼパム』だ」
「そんな薬…誰にでも売ってしまうの?」
「ああ、そうだ。しかし不法販売の薬だから、それなりの値段じゃがな」

 飽きれるモエにも構わず、ドラゴンヘッドは言葉をつなげた。

「貧乏なメイドが全財産をはたいて買って、いったい何をしようとしているのか…」

 しばらく紫煙の中に顔をうずめ深い思考の世界に身をゆだねている彼を、心配そうに覗き込むモエ。やがて意を決したように彼は大きな音を立ててキセルの灰を灰皿に叩き落した。

「そのメイドに賭けてみるか」
「どっ、どういうこと?」
「いずれにしろ、あんたとの約束の時間も迫ってきているしな。息子さんの捜索もいよいよ大詰めだよ、ミセス・コウケツ」


〈香港街景〉

「ドクター・コウケツ。これで、彼への記憶の移植は済んだということでしょうか」

 拉致グループのリーダーがタイセイに確認した。彼らが連れてきた『孫楊』という選手は、体躯もしっかりし、柔らかい筋力も持ち合わせている本物のアスリートだった。そのアスリートの目を診察しながらタイセイは考えた。

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