【完結】私に甘い眼鏡くん
人混みを抜け、少し暗い中急坂を登る。

お祭りと言えば浴衣に草履だし、私は今日制服であることに若干残念な思いを抱えていたが、そんな恰好をしていたらおそらくここには来られなかっただろう。


坂を登りきると小さな神社があった。座れるスペースは少しだけれど、相当な穴場なのか誰もいなかった。


「うわー!綺麗!」


下に屋台とたくさんの人がいて話し声や歌が入り混じって聞こえる。
駅に向かって伸びている提灯の光が柔らかい。


「落ちたら死ぬぞ。気を付けろ」
「高校生なんだからさすがにだいっ!?」
「おいっ」


言ったそばから小石に躓いた。倒れそうになった私の腕が強く引かれ、そのまま東雲くんの腕の中でがっしりと抱かれた。


「ご、ごめん」
「本当に危なっかしいな‥‥‥」
「私東雲くんに支えられてばっかりだね」


電車の中。あるいは、二人きりの教室。あるいは、穴場の神社。


「望月が目の前で倒れそうになるから、受け止めるしかないだけだ」


まったく、とため息をつきながら彼は雑草が生えている地べたに座った。
私も座ろうとすると、待て、と止められる。


「お前はここに座れ」


彼がさっき食べていたイカ焼きのビニール袋。
気遣いに驚いたが、お言葉に甘えて座らせてもらう。

花火まではあと十分ほど。
私はわたあめの袋を開けた。


「食べる?」
「じゃあ少しだけ」


本当に少しだけちぎり口に運ぶ彼。
大人びている故わたあめが似合わず、おもわず笑みがこぼれる。

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