【完結】私に甘い眼鏡くん
それにしても、綺麗な夜景だった。
田舎なので光が多いわけではないが、お祭りの高揚が少し離れたここまで伝わってくる。
「どうしてこんないいところ知ってるの?」
「親に連れられて一回だけ来たことがある。両親も俺たちと同じ高校出身なんだが、祭りも二人で行ったらしい」
ここは秘密の場所だと教えられた、と続いた。
「そんな大事なところ教えてもらっちゃったなんて、なんだか申し訳ないな」
率直な感想を投げかける。
「俺がいいって思ったんだから、気にする必要はない」
「そっか。でもここのことは秘密にするね」
「そうだな」
軽く雑談をしていると、なんの前触れもなく花火があがり始めた。
思わず歓声を上げる。通りのあたりからは人々のどよめきが聞こえた。
それほどまでに、花火は綺麗だった。
綺麗だね!
そう言おうとして傍らの彼を見て、息を飲む。
その横顔は花火よりも綺麗だった。めがねにつきそうな長い睫毛、すらりと通った鼻筋に少し薄めの唇。それぞれのパーツが花火に照らされ輝いていた。
私の視線に気づいたのか、ばっちり目が合う。
「見ないの? 花火」
「ううん、見てるよ、綺麗だね」
「俺ばっかみてるくせに」
からかわれているのは分かっていた。
けれど、どうしても伝えたくてたまらなかった。
「東雲くんが、綺麗なの」
心も、なにもかも。
初めて知った、綺麗なおとこのこ。
ああ、私、ようやく分かったんだ。
東雲くんに、恋をしている。
「‥‥‥本気?」
数秒黙って、彼は言う。コクンと頷いた。
ずい、と顔を近づけられる。
「口の横、わたあめついてる」
「えっ!?」
突然の指摘に燃えるように顔が熱くなる。ムードもへったくれもなかった。
恥ずかしさで顔を背け、口元を拭う。
「取るからこっち向いて」
涙目になりながら恐る恐る振り向く。
そこには今まで見たどの顔よりも優しく微笑む東雲くんがいた。
頬に手を添えられ、視界が彼でいっぱいになっていく。
嘘、とるってそういうこと‥‥‥?
全てを理解した私は思わずぎゅむ、と目をつむった。
彼の息遣いをすぐそばで感じる――
「あーーーーーー!ママ、あの人たちチューしようとしてる!!!!」
はっとお互い飛びのいた時には、申し訳なさそうな顔のお母さんが子供を抱きかかえ坂を下ろうとしているところだった。
慌てて引き留めて、少し狭くなった神社でまた花火を見始めた。
ほてりが引く様子のないまま花火
が終わると、ごめんなさいね、と足早に帰っていくお母さんを苦笑いで見送った。気が抜けた私たちは自分たちの滑稽さに笑い出す。
「気まずかった」「地獄の空気だった」と口々に感想を言っていたら、電話がかかってきた。
「もしもし? なっちゃん?」
「もしもしじゃないよ! 今どこにいるの? 花火一緒に見れなかったじゃん!」
かなりご立腹のようだ。自分も連絡してこなかったのに、と思いつつ、ごめんごめんと謝った。
市民館の前で待ってるからね!と言って、次の瞬間には電話終了の音が耳元で鳴る。
「なんだって」
「市民館の前で待ってるって。連絡しなかったから怒られちゃった」
「俺がするなって言ったことにでもしておけばいい。行くか」
さっさと歩き出した彼の後ろでそんなの悪いよと言う。
「いいから。それと」
急に立ち止まって、彼は振り向いた。
「わたあめ、ついてないよ」
田舎なので光が多いわけではないが、お祭りの高揚が少し離れたここまで伝わってくる。
「どうしてこんないいところ知ってるの?」
「親に連れられて一回だけ来たことがある。両親も俺たちと同じ高校出身なんだが、祭りも二人で行ったらしい」
ここは秘密の場所だと教えられた、と続いた。
「そんな大事なところ教えてもらっちゃったなんて、なんだか申し訳ないな」
率直な感想を投げかける。
「俺がいいって思ったんだから、気にする必要はない」
「そっか。でもここのことは秘密にするね」
「そうだな」
軽く雑談をしていると、なんの前触れもなく花火があがり始めた。
思わず歓声を上げる。通りのあたりからは人々のどよめきが聞こえた。
それほどまでに、花火は綺麗だった。
綺麗だね!
そう言おうとして傍らの彼を見て、息を飲む。
その横顔は花火よりも綺麗だった。めがねにつきそうな長い睫毛、すらりと通った鼻筋に少し薄めの唇。それぞれのパーツが花火に照らされ輝いていた。
私の視線に気づいたのか、ばっちり目が合う。
「見ないの? 花火」
「ううん、見てるよ、綺麗だね」
「俺ばっかみてるくせに」
からかわれているのは分かっていた。
けれど、どうしても伝えたくてたまらなかった。
「東雲くんが、綺麗なの」
心も、なにもかも。
初めて知った、綺麗なおとこのこ。
ああ、私、ようやく分かったんだ。
東雲くんに、恋をしている。
「‥‥‥本気?」
数秒黙って、彼は言う。コクンと頷いた。
ずい、と顔を近づけられる。
「口の横、わたあめついてる」
「えっ!?」
突然の指摘に燃えるように顔が熱くなる。ムードもへったくれもなかった。
恥ずかしさで顔を背け、口元を拭う。
「取るからこっち向いて」
涙目になりながら恐る恐る振り向く。
そこには今まで見たどの顔よりも優しく微笑む東雲くんがいた。
頬に手を添えられ、視界が彼でいっぱいになっていく。
嘘、とるってそういうこと‥‥‥?
全てを理解した私は思わずぎゅむ、と目をつむった。
彼の息遣いをすぐそばで感じる――
「あーーーーーー!ママ、あの人たちチューしようとしてる!!!!」
はっとお互い飛びのいた時には、申し訳なさそうな顔のお母さんが子供を抱きかかえ坂を下ろうとしているところだった。
慌てて引き留めて、少し狭くなった神社でまた花火を見始めた。
ほてりが引く様子のないまま花火
が終わると、ごめんなさいね、と足早に帰っていくお母さんを苦笑いで見送った。気が抜けた私たちは自分たちの滑稽さに笑い出す。
「気まずかった」「地獄の空気だった」と口々に感想を言っていたら、電話がかかってきた。
「もしもし? なっちゃん?」
「もしもしじゃないよ! 今どこにいるの? 花火一緒に見れなかったじゃん!」
かなりご立腹のようだ。自分も連絡してこなかったのに、と思いつつ、ごめんごめんと謝った。
市民館の前で待ってるからね!と言って、次の瞬間には電話終了の音が耳元で鳴る。
「なんだって」
「市民館の前で待ってるって。連絡しなかったから怒られちゃった」
「俺がするなって言ったことにでもしておけばいい。行くか」
さっさと歩き出した彼の後ろでそんなの悪いよと言う。
「いいから。それと」
急に立ち止まって、彼は振り向いた。
「わたあめ、ついてないよ」