【完結】私に甘い眼鏡くん
夏祭りから一週間が過ぎた。

夏休みももう折り返しだが、あまりにも多すぎる課題の量に絶望を感じながら日々やることを消化していく。
みんなとおしゃべりをしていたあの頃が懐かしい。

夏祭りのあの出来事を思い出しては悶絶する毎日を送っていた。

今まで東雲くんに向けていた感情に『好き』だとか、『恋』だとか、『片思い』だとか甘酸っぱい名前がついてしまって、こっぱずかしさが募っていく。


‥‥‥でも私、好きな人ができたんだ。


初恋の相手が彼だと思うとまた何とも言えない感覚に襲われて、ベットの上で例のぬいぐるみを抱きしめながら身もだえた。

耐えられない。
一人でこの感情を心に秘めておける気が全くしなかった。


自習登校(?)が終わってから誰とも連絡を取ることもなく、またろくに家からも出ていない。
気分転換に散歩に出かけようと思い立った私は、制服のおかげでほとんど着る機会のないわずかな私服を選び始めた。

もうジャージでいいかとなげやりになっていると、机の上のスマートフォンから着信音が鳴り出した。
なっちゃんから電話だ。


「はーい」
「彩? 元気?」
「元気だよ」

それは学校の最寄り駅前のファーストフード店で、一緒にお昼を食べて勉強をしないかというお誘いだった。
散歩もジャージもやめて快諾。

この時間帯は一時間に一本しか電車がないため、時間を決め大急ぎで支度を始める。

少しだけかわいい服を着て、少しだけメイクをした。
久々のアイシャドウはピンクラメがキラキラしていてかわいい。

赤いリップを軽く引き優しく唇を擦り合わせながら、トートバックに教材と財布、定期を詰め、誰もいない家に鍵をかけた。

走って駅に着くと電車が来る三分前だった。

良かった、間に合った。

途中駅でなっちゃんが乗ってくる。
こうして二人で電車に乗るのは久しぶりだった。


「ごめんねー急に誘って。今日朝部活が突然オフになってさ。家で一人もさみしいし、久々に彩とおしゃべりしよっかなって」
「勉強そろそろ飽きてたから助かったよ。それに、実は話したいことも聞きたいこともあって」
「彩も? 私もあるんだよ。直接話したかったけど、最近あんまり二人になれなかったからねー」

なっちゃんも私と話したいって思ってくれていたんだ。

やっぱり、最高の友達だと確信した。

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