【完結】私に甘い眼鏡くん


「実は、好きな人ができました」


ハンバーガーを頬張る私の前で、なっちゃんは照れながらナゲットをつまんだ。


「誰!? 太一!?」
「なんで太一?」


食い気味の私を笑いながら受け流し、部長だよ、と続けた。


「それに私、太一には中学時代フラれてるんだよね」


衝撃発言だった。フラれた? 中学時代に? そもそも同じ中学だったの?
どれから聞けばいいのかキャパオーバーな私を見かねてか、なっちゃんは助け船を出した。


「別に気にしないで、中二のときだし、さすがに吹っ切れてるよ」
「そこじゃない! え、同じ中学だったの?」
「あれ、言ってなかった?」
「完全に初耳なんだけど!?」


しかも、太一と同じ中学ということは、東雲くんとも同じ中学ということだ。


「言った気になってた、ごめんごめん! 
太一は小学校の時転校してきて、そっからずっと同じクラスだし部活も同じ。去年以外はね」


初めての情報が多すぎて、整理するのに必死だった。
だからあんなに仲がいいんだ。あと太一ってこの辺の人じゃないんだ。


「部長は? どんな人?」
「めっちゃかっこいい! 筋肉の付き方も理想的で、走るフォームなんてもはや芸術。
それにめちゃくちゃスパルタなのに、優しさが不器用なのがso good‥‥‥」


だんだんと顔がうっとりしていく。
突然の横文字と目がハートマークのなっちゃんを苦笑いでみると、私の反応に気付いた彼女は軽く咳払いをした。


「それで? 彩の話したいことは?」


話の矛先が急に向いて面食らう。
ハンバーガーをトレイにおいて、私も同じように軽く咳払い。


「えー、私もついに、恋に目覚めました」
「ああ、東雲ね」


おそらくハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている私にジト目が投げられた。


「いや、見てたら誰だってわかるよ? 私言ってくれるのずっと待ってたのに。期末あたりから」


だからクラスマッチのときはちょっと拗ねて、太一の味方しちゃったけど、と意地悪な顔で笑う。な
っちゃんもそれ、知ってたんだ。設定とは知らなそうだけれど。

それでもそんな前から私彼のことが好きな感じ出てたの?
太一にも言われたし。


「‥‥‥でも私、好きって気付いたのこの前の夏祭りの時で‥‥‥」


なっちゃんが口に運びかけていた長いポテトが、急な運動の停止にぐにゃりと曲がる。


「え? さすがに冗談でしょ? ずっと気付いてなかったの?」


首を縦に振る。


「むしろなんで夏祭りで気付いたの!? そういえば彩達、落ち合ったときぎくしゃくしてたよね!? まさか!?」
「それは誤解だよ!?」

その後私は全てを洗いざらい話させられた。
夏祭りのことはもちろん、一緒に勉強していた時のこと、クラスマッチの教室でのやりとり、一緒に帰ったあの日の会話。

一通り聞き終わったなっちゃんは、まずなぜ話してくれなかったのかと檄を飛ばした。
ため息をついて、そのあとに満面の笑みを浮かべる。


「脈ありどころか両想いだね。告白してこい!」
「無理無理、絶対無理!」


花火を見ていた時は気分の高揚で変なことを言ってしまった。
思い出すだけでも恥ずかしい。

あのようなことは、とてもじゃないが言えそうにない。


「付き合いたくないの?」
「付き合う‥‥‥?」


付き合うって一体なんなのだろう。
私は正直今の距離感に満足しきっていた。

そんな様子の私になっちゃんはまたため息をこぼす。


「そんな調子でいつか東雲くんのことが好きな女子が現れても知らないからね」


普通にあり得る話がったが、私は笑ってごまかした。


年度初めには彼氏が欲しいと息巻いていたが、いざ本当にできるかもしれないと思うと、フラれるというリスクを冒してまで作りたいものでもなかった。


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