【完結】私に甘い眼鏡くん
この学校では三学期制が採用されている。

定期考査は一学期中間、期末、二学期中間、期末、三学期期末の計五回。
そしてバランスの悪いことに、一学期中間が終わると一ヶ月でもう期末考査を迎える。

私と東雲くんは出題範囲の狭い今回のテストで頑張って、高い点数と評定を狙うという姑息な手段を実行していた。


「望月、ここって」
「えっと、そこはね……」


六限が終わるとすぐに帰る帰宅部の鑑かつ高校生活低燃費な私達(自称:ハイブリット組)はその個性を捨てた。
誰もいなくなった教室で、東雲くんの隣に座る。グラウンドの野球部の声をBGMに、黙々とシャーペンを動かしていた。我ながら真面目が過ぎる。

ふと窓の外を見ると、ちょうどなっちゃんが走り幅跳びの種目で跳躍をしたところだった。
思わず声を上げ、窓に駆け寄る。

時計を見ると勉強を始めてから既に一時間経過していた。このくらいの息抜きは許されるだろう。


「どうした?」
「あ、ごめん。なっちゃんが練習してるのが見えたからさ。邪魔しちゃった?」
「いや、小休憩するつもりだったから」


そう言って立ち上がった東雲くんは、窓を見る私の横に来て、近くの机に腰を下ろした。


「望月はさ、森中と春川と仲いいよな」


眼鏡の奥の瞳には談笑している二人が映っているのだろう。綺麗な横顔から視線を外に戻し答える。


「なっちゃんは仲いいけど、春川は至って普通だよ」
「そうなのか」


また考えこんでいる。眉間にしわを寄せていたら熟考中の合図だ。とても難しい問題に直面しているときのみ、彼のこの癖は発動する。


「同じ中学出身だったが、あまり話す機会がなかった。お前の方が春川のこと知ってると思う」
「そうなの? 初耳。でも私、春川のこと全然興味ないんだよね。なんかなっちゃんと良い感じだし」
「へえ。どのあたりが?」
「いや、もうああいうところでしょ」


跳び終えたなっちゃんは記録が良かったのか、二人でハイタッチ。笑顔で春川の背中を押して送り出す。


「‥‥‥よくわからないけど、あれが『いい雰囲気』ってやつなんだな?」


難しそうな顔をしていて驚く。あの二人の態度はもはや両思いは歴然だ。いや、恋じゃなくて、もしかするとかなりの信頼を置いているのかもしれない。

それでも、お互いがお互いを少し特別に想っていることぐらいは、誰の目から見ても明らかだった。


「東雲くんて、結構鈍感?」
「なんか言ったか?」
「ううん。勉強しよっか」


すっきりしない表情がスイッチを押されたように真顔に切り替わる。

今日わかったこと。
鈍い東雲くんは、相当かわいい。

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