痛み無しには息ていけない

~弐~

「うわ~、終わったー!!」

「お疲れ様です、小川さん。…今、何時ですか?」


ようやく仕事が終わり、自分は伸びをする。吉田さんが労いの言葉をかけてくれた。
連休前で仕事の量が増えてた事もあり、普段よりも時間がかかった。
日本の連休は、工場も流通も止まったとしても、小売業やサービス業は止まらないから、必然的に連休前の仕事量は多い。
当然のように仕事は終わらず、残業になっていた。


「えっと……。てっぺん越えて、0時55分っす」

「マジ!?嘘でしょ!?…終電、逃した」


あまりのショックに、普段は出て来ないタメ口が出てくる吉田さん。
……自分のが年下だし後輩なんだから、別にタメ口だろうと何でも良いんだけど。


「…どうします?自分チャリで来たんすけど、もし良ければ途中まで送っていきますよ。吉田さん、最寄りは××駅っすよね?それなら、××陸橋の交差点とか、どうっすか?」

「…御願いしても良いですか?」


自分の最寄りを走る国道の、吉田さんの家の近くにあるであろう交差点まで、送っていく事になった。
その交差点は、自分の家からチャリで30分くらいの場所である。此処から歩いたら、余裕で2時間は越えそうだ。


「コンビニ寄っても良いですか?」

「良いっすよ。外で待ってます」


職場の最寄りのコンビニに寄った吉田さんは、煙草と幾つか缶チューハイを買ってきた。…さすが呑んだくれ。
コンビニの袋の中身を見せてくる。


「お好きなの、どうぞ」

「良いんですか?…頂きます」


自分は比較的、果汁含有率が高いチューハイを一本取り出す。
そのまま、缶のプルタブを引き上げた。右手の小指が少し痛む。


「お疲れ様です」

「お疲れ様っす」


吉田さんが小さく乾杯の音頭を取って、自分もそれに合わせる。
一口呑んだ後、吉田さんが歩き出すのに合わせて、チャリを押し始めた。


「ちょっと寒いくらいで、過ごしやすいですね」
< 35 / 56 >

この作品をシェア

pagetop