あやかしの集う夢の中で
「何なの、桜介……。

カッコ悪いよ」



桜介とは離れている廊下側の席にいる愛理が誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいた。



あの頼りなくて、注意散漫な幼なじみをどうにかできないものだろうか?



愛理は何年も前から思っているずっと解決しないその小さな悩みに思わずため息をついていた。



「春野はちゃんと授業を聞くように。

それじゃ、前に来てこの問題を解きなさい」



鎌田先生がそう言ったので、桜介が黒板に目を向けると、そこには因数分解の問題が5問書いてあった。



桜介は解ける自信のないその問題に憂うつな気持ちになりながら、倒れた椅子を直した後に、ゆっくりと先生の方へと歩き出した。



「桜介君、ファイトです」



となりの席のカノンが癒し系の笑顔を浮かべながら、桜介にそう話しかけていた。



カノンのその優しさはうれしかったけど、桜介にはカノンその優しい言葉に応える自信は少しもなかった。
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