あやかしの集う夢の中で
桜介は因数分解の問題が書いてある黒板の前に立ち、自信なさげにチョークを手に取った。



そしてその問題を解こうと思ってみたものの、自分にはチンプンカンプンで、少しも解けそうな気がしない。



桜介がチョークを手にしたまま黒板の前で固まっていると、鎌田先生は少し怒り気味に桜介にこう言った。



「春野、授業を聞いていない証拠だぞ。

それじゃ、席に戻りなさい」



桜介は手にしていたチョークを置き、肩をすぼめて自分の席へと戻っていった。



鎌田先生は自分がこんな問題を解けないことを知っているくせに、いじわるだなぁと思いながら。



しょげてる桜介にカノンだけは癒しの笑顔を向けていた。



そしてカノンは「ドンマイです、桜介君」と優しく声をかけてくれたが、桜介はカノンのその言葉に作り笑顔を見せただけで、言葉を返せず席についた。



(カノンちゃんの癒しの笑顔はうれしいけど、カノンちゃんに合わせる顔がないよ。

勉強は苦手、スポーツは人並み、中学三年生なのに身長158cmは悩みだし……。

オレの得意なことって言ったら、怪談とかオカルト話ばっかり。

ああ、神様。

オレにも才能を与えろよ)



桜介が胸の中で不満を抱えている間も数学の授業は進行していた。



そして鎌田先生は教室内を見回すと、教室の一番後ろの席にいる男子生徒に目を向けた。



「それじゃ、風間。

前に来てこの問題を解きなさい」



風間時宗の名前が呼ばれた瞬間に教室にいる女子たちの意識が風間時宗に向けられたように桜介は感じていた。



鎌田先生に指名された時宗は、いつもと同じくクールな感じで立ち上がり、ゆっくりと黒板の方へと歩いていった。
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