あやかしの集う夢の中で
「信じられないのなら信じなくてもいい」



時宗は表情を変えることなく愛理に冷たくそう言った。



「ただ、オレを信じないと言うことは、如月舞を夢妖怪の危険にさらすということだ。

もしも本当に如月舞の夢に夢妖怪たちが群がっているとするなら、如月舞の夢はめちゃくちゃに壊され、彼女はその衝撃で鬱になり、笑顔をなくしてしまうだろう」



「舞ちゃんが笑顔をなくす……」



桜介はそうつぶやくと黒縁の丸メガネを外して時宗に目を向けた。



完璧過ぎる時宗はいけ好かないヤツだけど、時宗がウソを言っているようにも思えない。



桜介は舞を心配しながら、舞の笑顔を頭の中で思い浮かべた。



生粋のお嬢様である舞の笑顔は優しくて気品がある。



そんな舞の笑顔は周りの人たちを幸せな気持ちにさせるし、桜介も舞の笑顔が大好きだった。



もしも舞の笑顔がもう二度と見れなくなるとしたなら、こんなに悲しいことはない。



桜介はそう思って、真剣な目を時宗に向けていた。



「オレは時宗の言葉を信じる。

オレは舞ちゃんを夢妖怪から救いたい」



桜介が時宗に対して強く抱いている敵対心も舞を救うためなら関係なかった。



早く元気な舞がこの部室に戻ってきてくれればそれでいい。



それが桜介の強い願いだった。
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