あやかしの集う夢の中で
「ぐぬぬっ、時宗め。

なぜにそんなにモテるんだ……」



時宗は基本、笑わない。



そんな時宗を女子はクールでカッコいいと言うが、他の男子は時宗をマネできない。



だって何の取り柄もない普通の男子が黙り込んでしまったら、自分の存在を女子に気づいてさえもらえないから。



自分みたいに明るい笑顔を浮かべ、楽しい話題を見つけ出し、目一杯、女子にアピールしてみても、クールなイケメンには勝てないのか……。



桜介はそんなことを思いながら、思わず愛理に話しかけていた。



「おい、愛理。

時宗に見とれてんじゃねぇよ。

今は目の前の敵に集中するときだろ」



「何言ってるの?

私は時宗君に見とれてなんかいないよ。

それにさ、そんなことを桜介に言われたくないんだけど」



怒りながらそう言ってきた愛理の言葉を桜介は聞き流し、どうすれば自分が輝ける何者かになれるかを考えていた。



桜介は自分が平凡で取り柄のない男だと自覚していた。



もしかしたら、それは努力とかじゃ変えられないということも。



でも、本音を言えば自分だって時宗のようになってみたい。



自分が生きているこの世界で、キラキラと輝く主役になってみたい。



「春野、オレの話をよく聞け」



胸の中でたくさんの思いを抱えている桜介に時宗が話しかけてきた。



「前にも言ったが、夢の中の世界では思いが強い者が強くなれる。

だから自分を信じて、自分が最強だと思え。

そうすればお前でも強力な炎属性の技が使える。

お前が心から強く願えば……」



「うるせぇ!」



桜介は全力でそう叫び、時宗の話をかき消した。



「言われなくてもわかってるよ。

オレはお前なんかに負けねぇからな!」
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