二度目の初恋
泣きすぎたせいで目が腫れているみたいで2分の1の視界が4分の1に感じられる。

体はだるくて頭はぼーっとし、思考回路が上手く回っていないようだ。

昨晩のことを母に知られてはなるまいとわたしは平静を装って下に降りていくと、その途中でリビングから話し声が聞こえてきた。


「紀依はもう行ったの?」

「ああ。吹奏楽部の朝練らしい。大会が来週だからな」

「えっ、そうなの...。あのこ何も言わないから私何も...紀依のこと...何も分からないの」


わたしは階段のちょうど中間地点に座り込み、両親の話を盗み聞いた。


「依子、君が由依の世話を頑張って来てくれたことには本当に感謝している。だけどその分、紀依は疎かになってしまった。俺も一生懸命愛情を注いで育てたつもりだったが、どうやら母親の愛情が一番大事だったみたいだ。紀依は君と離れてから愛情が途絶えてずっと寂しくて苦しくて辛い思いばかりしてきた。だからどうか紀依を叱らないで優しく見守ってやってくれ」

「でも紀依は由依にいつもあんな態度を...」

「そうやって紀依を否定しては可哀想だ。由依は高校生、紀依はまだ中学生で今年は受験生だ。今優先しなければならないのは紀依だ。紀依の気持ちに寄り添ってあげよう。もちろん俺も協力する」


母は何も言わなかった。

ここからでは母が泣いているのか呆然としているのか分からない。

ただ、母が紀依ちゃんと向き合い、紀依ちゃんを受け入れる気持ちになってきたのは確かだった。

親も子も完璧じゃない。

完璧なんてこの世にはない。

何度も間違えてそこから何かを学びとって明日に進んでいく。

その明日も間違えてしまうかもしれないけれど、それでも後戻りは出来ないから1歩でも半歩でも進むしかない。

そうやって生きていくんだ、きっと。

わたしも...がんばります。

やれるだけやってみます。

死ぬなんて思っちゃダメだ。

父に言われた通り笑ってるんだ。

紀依ちゃんに何を言われようとも関係ない。

わたしはわたしのやり方で紀依ちゃんと本当の姉妹になっていくんだ。

失った16年を今から取り戻すんだ。

わたしは膝をぽんと叩いて立ち上がった。

部屋に戻りバイトにいく準備を始める。

紀依ちゃんのコンクールの日は14日だ。

その日には大きな花束を贈ろう。

誰のものよりも大きくて笑顔が咲いたような鮮やかな花束を。

わたしに出来ることはそれくらいしかないけどゼロじゃない。

なら、その可能性にしがみつくしかないんだ。

ゆっくりでも、ちゃんと生きていこう。

生きていけば必ず道は開ける。

そう強く信じて...。

わたしは鏡の前で笑顔を作ってから階段を降りていったのだった。

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