侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
見知らぬ少女(おそらくは皆貴族階級であろう)たちの中に放り込まれたコーディアは、長椅子の隅に腰を下ろした。
客用の使用人がさっと動いてコーディアのために新しいカップを用意してくれた。
少女たちはじっとコーディアを観察している。
色とりどりのドレスに身を纏った少女たちは合わせて六人。皆金色だったり茶色だったりする髪の毛を束ね、きれいな刺繍入りのりぼんや宝石の髪留めを着けている。
今日のコーディアはケイヴォンで今話題だという仕立屋で作ってもらった葡萄色のドレスを着ている。
見かけは周りの少女たちと変わらないと思うのに、観察されているような居心地の悪さを感じてしまう。
「はじめまして。コーディア・マックギニスと申します。あの、よろしくお願いします」
コーディアは恐る恐る切り出した。
自己紹介をしないと、と思ったのだ。
「あら、インデルク語が話せないかと思ってましたわ。ごきげんよう、コーディアさま。マックギニスというと、マックギニス侯爵ゆかりの方なのかしら」
少女たちを代表して、赤茶色の髪をした令嬢が口を開いた。はきはきした声である。
「インデルク語は、一応話せます。ジュナーガル帝国ではずっとフラデニア語ばかりでしたからまだ慣れていませんが。えっと、マックギニス侯爵は父の兄になります」
コーディアがそう言うと、「ジュナーガルですって」とか「それって南の方の……」「あの未開の地ですわよね」とか「マックギニス侯爵の姪なのね」「直系ではないんじゃない」とか少女たちは口々に囁き合った。
「わたくしたちもライル・デインズデール様がついに婚約をされたっていう噂を伺っておりましたのよ」
コーディアに話しかけてきた令嬢が再び口を開く。
コーディアはその瞳に射抜かれて呼吸することを忘れそうになる。どこか険のある眼差しだった。
「いやだ、そんなにも緊張なさらないで。わたくしたち、あなたに興味がありますの。だって、ライル様を射止めた方ですもの」
それから少女たちはそれぞれ自己紹介を始めた。赤茶色の髪の少女はアシュベリー伯爵家の令嬢だと名乗った。
皆、それぞれ父親は爵位を持っていたりそれに準ずる家柄で、中には家の歴史を長々と語る令嬢もいた。
コーディアはそれぞれの少女たちの肩書を覚えるのに必死だった。
「わたくしたちのことは気軽に名前で呼んでくださって結構よ。ここにいるみんな仲良しですもの」
コーディアは素直に頷いたが、いきなり敬称もなしで呼んでよいものだろうか。彼女たちとの距離感を図りかねて、とりあえずカップのお茶で口の中を湿らせる。
「コーディアはずっとジュナーガル帝国に住んでいましたの?」
今度は別の少女、ガートランド嬢が尋ねてきた。コーディアよりもくすんだ金髪を持った少女だ。
「え、ええ。生まれたときからずっとムナガルのディルディーア共同租界に住んでいました」
コーディアがそう答えると少女たちは一斉に目を瞬いた。
「え、生まれたときから……」「ま、まあ」「わたくし想像もできませんわ」「あちらの人々って裸同然の衣服で生活をしているって本当なのかしら」
少女たちは困惑をしているようだった。
コーディアは首をかしげたくなる。
租界の中はディルディーア大陸風の建物が立ち並び、銀行も商店も学校もあるし、教会だってあるのだ。
客用の使用人がさっと動いてコーディアのために新しいカップを用意してくれた。
少女たちはじっとコーディアを観察している。
色とりどりのドレスに身を纏った少女たちは合わせて六人。皆金色だったり茶色だったりする髪の毛を束ね、きれいな刺繍入りのりぼんや宝石の髪留めを着けている。
今日のコーディアはケイヴォンで今話題だという仕立屋で作ってもらった葡萄色のドレスを着ている。
見かけは周りの少女たちと変わらないと思うのに、観察されているような居心地の悪さを感じてしまう。
「はじめまして。コーディア・マックギニスと申します。あの、よろしくお願いします」
コーディアは恐る恐る切り出した。
自己紹介をしないと、と思ったのだ。
「あら、インデルク語が話せないかと思ってましたわ。ごきげんよう、コーディアさま。マックギニスというと、マックギニス侯爵ゆかりの方なのかしら」
少女たちを代表して、赤茶色の髪をした令嬢が口を開いた。はきはきした声である。
「インデルク語は、一応話せます。ジュナーガル帝国ではずっとフラデニア語ばかりでしたからまだ慣れていませんが。えっと、マックギニス侯爵は父の兄になります」
コーディアがそう言うと、「ジュナーガルですって」とか「それって南の方の……」「あの未開の地ですわよね」とか「マックギニス侯爵の姪なのね」「直系ではないんじゃない」とか少女たちは口々に囁き合った。
「わたくしたちもライル・デインズデール様がついに婚約をされたっていう噂を伺っておりましたのよ」
コーディアに話しかけてきた令嬢が再び口を開く。
コーディアはその瞳に射抜かれて呼吸することを忘れそうになる。どこか険のある眼差しだった。
「いやだ、そんなにも緊張なさらないで。わたくしたち、あなたに興味がありますの。だって、ライル様を射止めた方ですもの」
それから少女たちはそれぞれ自己紹介を始めた。赤茶色の髪の少女はアシュベリー伯爵家の令嬢だと名乗った。
皆、それぞれ父親は爵位を持っていたりそれに準ずる家柄で、中には家の歴史を長々と語る令嬢もいた。
コーディアはそれぞれの少女たちの肩書を覚えるのに必死だった。
「わたくしたちのことは気軽に名前で呼んでくださって結構よ。ここにいるみんな仲良しですもの」
コーディアは素直に頷いたが、いきなり敬称もなしで呼んでよいものだろうか。彼女たちとの距離感を図りかねて、とりあえずカップのお茶で口の中を湿らせる。
「コーディアはずっとジュナーガル帝国に住んでいましたの?」
今度は別の少女、ガートランド嬢が尋ねてきた。コーディアよりもくすんだ金髪を持った少女だ。
「え、ええ。生まれたときからずっとムナガルのディルディーア共同租界に住んでいました」
コーディアがそう答えると少女たちは一斉に目を瞬いた。
「え、生まれたときから……」「ま、まあ」「わたくし想像もできませんわ」「あちらの人々って裸同然の衣服で生活をしているって本当なのかしら」
少女たちは困惑をしているようだった。
コーディアは首をかしげたくなる。
租界の中はディルディーア大陸風の建物が立ち並び、銀行も商店も学校もあるし、教会だってあるのだ。