侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
 彼女たちの本音がありありと見えた。一見仲良くしているアメリカのことも少女たちは裏ではあまりよく思っていないらしい。
 コーディアはべつに侯爵家の跡取りと結婚なんてしたくなかった。コーディアが是非にとお願いしたわけではないのに。
 勝手に決められた縁談で、そういう事情も分かってもらえないままコーディアは羨望と嫉妬の入り混じった感情をぶつけられている。彼女たちはライルと結婚したかったのだ、きっと。

 だからコーディアのことが気に食わない。
 わかれば簡単なことで、コーディアだって別にインデルクのことなんてちっとも好きになれない。

 コーディアは窓辺に近づいて外を見上げた。今日も相変わらず空には重たい灰色の雲が立ち込めている。朝は少し日が刺したのに、少し見ないうちにすっかり雲が覆いかぶさってしまった。
 そうするとコーディアの心まで灰色で満たされる気になる。

 明るい太陽が恋しい。肌を焼き切るような強い日差しも、まとわりつくような湿気を帯びた空気も懐かしい。
 冷たい空気はまるでインデルクの人たちのようにコーディアの心に突き刺さる。
 祖国というだけでコーディアにとっては異国も同じだ。
 ディルディーア大陸に淡い憧れを抱いていたのがうそのように今は落胆で溢れていた。

◇◇◇

 その日の夜、コーディアはムナガルから持ってきた荷物の中から手紙の束を取り出した。

 もう何回も読み返している寄宿学校の学友たちからもらったもの。少女たちは手紙のやり取りを日常の一部にしている。昔貰ったそれらがコーディアの心を慰めてくれる。
 他愛もないやり取りが綴られた便箋を目で追っていると心の中がじんわりとしてくる。

 毎日ムナガルの輝かしかった日々が懐かしい。ずっとあそこにいたかった。結婚だって、ムナガルに住む男性とするものだと思っていた。そうしたら週に一度くらいは学校に通って小さなアドリーヌに本を読み聞かせてあげられたのに。

 それなのに現実はというと、遠い遠い国へと連れてこられて。
 別に祖国に帰りたいなんて思ってもいなかったのに。一度くらい遊びに行ってはみたかったけれど、今の生活なんて想像もしていなかった。

(みんな……)

 コーディアは在りし日に思いを馳せる。
 せめて夢の中では、寄宿学校の夢を見られるだろうか。
 コーディアは手紙を抱きしめたまま眠りについた。
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