侯爵家婚約物語 ~祖国で出会った婚約者と不器用な恋をはじめます~
「わ、わたしも……その……探偵小説が好きで。ロルテームで発売されている『探偵フランソワの冒険』シリーズが大好きなんです」
コーディアは身近なところに同士がいたことが嬉しくて自分の好みを打ち明けた。
「今度一緒に書店や貸本屋を回りましょうか」
「はいっ」
エイリッシュの素敵な提案にコーディアはにっこりと笑った。
◇◇◇
コーディアの様子が心配で、ライルは今日も必要最低限の予定だけをこなして帰路についた。
屋敷近くの道に差し掛かった時、通りに見知った二人組を見つけ、慌てて御者に止まるよう言いつけた。
ライルは慌てて馬車から降りた。
通りを歩いていたのはメイヤーを連れたコーディアだった。
家出騒ぎは二日前のことだ。
コーディアは突発的に家出をするほどに気を病んでいた。ライルとの関係や慣れないケイヴォン生活など、理由はいくつかあるだろう。
「コーディア」
呼びかけるとコーディアが立ち止まった。
「ライル様」
ライルはコーディアの方へ近寄った。
帽子をかぶり、外套を羽織った彼女のいでたちは華美ではない。散策をしているだけなのだろうが、また彼女が姿を消すのでは、とライルは勝手に焦燥感を募らせた。
あんな思いをするのはたくさんだった。
彼女を駅でみつけるまで生きた心地がしなかった。本当に、誰かに攫われでもしたら、街中で見知らぬ人から危害を加えられていたら、と思うと胸が焼けただれそうだった。
「何をしている?」
平素のような声を出してしまい、コーディアが顔を伏せたのを見てライルは内心しまったと後悔した。
意識せずに声を出すとライルの口調は詰問しているように聞こえるだろう。
ナイジェルにも言われた。もっと丁寧に、優しくと。
「コーディア様はお散歩の最中でございます」
コーディアに代わってメイヤーが答えた。彼女が答えてくれなかったことにライルは気落ちした。
「そうか……」
ライルは逡巡した。
つい、勢いで馬車から降りてしまったが、コーディアはライルと一緒にいること自体が嫌なのではないだろうか。
コーディアは黙ってライルのことを眺めている。その顔はほんの少し困った様子だった。
いつもこんな顔をさせている。
本当は笑ってほしいのに。ライルはコーディアに笑顔になってほしいと思っているのに失敗ばかりしている。
「散歩なら、案内したいところがある。ついてきてくれないか?」
ライルは今度はゆっくりと、高圧的にならないよう注意深く話しかけた。
ややしてからコーディアはぎこちなく頷いた。
コーディアは腕をライルの方に伸ばして、それから視線を揺らしてから腕を引っ込めようとした。
もしかしたら、ライルの腕を取った方がいいのか迷っているのかもしれない。以前ケイヴォン散策でそのことを咎めたのはライルだ。
「いや、いまは大丈夫だ。ゆっくり、一緒に歩いてくれるだけで構わない」
ライルの申し出にコーディアはこくりと頷いた。
コーディアは身近なところに同士がいたことが嬉しくて自分の好みを打ち明けた。
「今度一緒に書店や貸本屋を回りましょうか」
「はいっ」
エイリッシュの素敵な提案にコーディアはにっこりと笑った。
◇◇◇
コーディアの様子が心配で、ライルは今日も必要最低限の予定だけをこなして帰路についた。
屋敷近くの道に差し掛かった時、通りに見知った二人組を見つけ、慌てて御者に止まるよう言いつけた。
ライルは慌てて馬車から降りた。
通りを歩いていたのはメイヤーを連れたコーディアだった。
家出騒ぎは二日前のことだ。
コーディアは突発的に家出をするほどに気を病んでいた。ライルとの関係や慣れないケイヴォン生活など、理由はいくつかあるだろう。
「コーディア」
呼びかけるとコーディアが立ち止まった。
「ライル様」
ライルはコーディアの方へ近寄った。
帽子をかぶり、外套を羽織った彼女のいでたちは華美ではない。散策をしているだけなのだろうが、また彼女が姿を消すのでは、とライルは勝手に焦燥感を募らせた。
あんな思いをするのはたくさんだった。
彼女を駅でみつけるまで生きた心地がしなかった。本当に、誰かに攫われでもしたら、街中で見知らぬ人から危害を加えられていたら、と思うと胸が焼けただれそうだった。
「何をしている?」
平素のような声を出してしまい、コーディアが顔を伏せたのを見てライルは内心しまったと後悔した。
意識せずに声を出すとライルの口調は詰問しているように聞こえるだろう。
ナイジェルにも言われた。もっと丁寧に、優しくと。
「コーディア様はお散歩の最中でございます」
コーディアに代わってメイヤーが答えた。彼女が答えてくれなかったことにライルは気落ちした。
「そうか……」
ライルは逡巡した。
つい、勢いで馬車から降りてしまったが、コーディアはライルと一緒にいること自体が嫌なのではないだろうか。
コーディアは黙ってライルのことを眺めている。その顔はほんの少し困った様子だった。
いつもこんな顔をさせている。
本当は笑ってほしいのに。ライルはコーディアに笑顔になってほしいと思っているのに失敗ばかりしている。
「散歩なら、案内したいところがある。ついてきてくれないか?」
ライルは今度はゆっくりと、高圧的にならないよう注意深く話しかけた。
ややしてからコーディアはぎこちなく頷いた。
コーディアは腕をライルの方に伸ばして、それから視線を揺らしてから腕を引っ込めようとした。
もしかしたら、ライルの腕を取った方がいいのか迷っているのかもしれない。以前ケイヴォン散策でそのことを咎めたのはライルだ。
「いや、いまは大丈夫だ。ゆっくり、一緒に歩いてくれるだけで構わない」
ライルの申し出にコーディアはこくりと頷いた。